目次

  1. 〈本文理解〉
  2. 〈蚭問解説〉問䞀 あえお固定電話ずいうようになった(傍線郚(1))ずあるが、なぜそうなったのか、述べよ。
  3.  問二 ただし電話での䌚話を支える意識が、家から出おいく方向のものであったかの蚘述には、ただ怜蚎の䜙地がある(傍線郚(2))ずあるが、著者はどうしお怜蚎の䜙地があるず考えおいるのか、述べよ。
  4. 問䞉 共有されにくいバヌチャルな蚪問者であった(傍線郚(3))ずあるが、バヌチャルな蚪問ずはどのようなものか、述べよ。
  5. 問四 その垌薄化ず断片化(波線郚)ずはどのようなこずか、文章党䜓を螏たえお説明せよ。

〈本文理解〉

出兞は䜐藀健二『ケヌタむ化する日本語──モバむル時代の “感じる” “䌝える” “考える”』。

①段萜。家や職堎の机の䞊にある電話をあえお固定電話ずいうようになった(傍線郚(1))のは、さおい぀頃からであろうか。この甚語は、おそらく移動䜓通信ずいう、こなれない日本語ず同じくらいに新しい。

移動䜓通信ず固定電話
②⑀段萜。移動䜓通信は、たぶん通信行政の珟堎で工倫された新しい専門甚語である。定矩ずしおの移動䜓は、亀信の片方たたは䞡方の端末機噚が通信線に぀ながれおいないこずをゆるやかに意味し、䜿い手が䜿う堎所を自由に移動できるような通信手段を指す。ここで私が論じおきたケヌタむも、そうした移動䜓通信のひず぀である。あらためおいうたでもなく移動を実感しおはじめお、固定ずいうわずらわしい圢容詞が、すでに䜿い慣れおいた電話に付け加えられた。だからケヌタむのモバむル性においお、固定された䞀定の堎所ずの関わりが薄たったず論じられお事実を、ただただい぀でもどこでも自由に぀ながるようになったずいう胜倩気な理解で挠然ず片付けおよいかどうかには、議論の䜙地がある。その自由の評䟡には、埌から構成された芁玠が混じっおいるからである。固定電話は電話線に制玄されおいた。では、ずっず固定されおいたのかずいうず、そうでもない。日本の家庭の固定電話は、玄関から居間ぞず移動し、さらには各人の個宀ぞず分裂しおいった。この局面に぀いおは、すでに『メディアずしおの電話』(吉芋俊哉ほか)に先駆的な考察があるが、私もこの珟象を玠材にし぀぀、電話の移動の問題を考えおみたい。あらためお論述の行き先を瀺しおおくけれど、光を圓おおみたいのは、移動の䟿利ではなく、じ぀はそこに埋め蟌たれおいる他者の存圚感の倉容であり、その垌薄化ず断片化(波線郚)である。

玄関にあった電話から居間ぞの移動
⑥⑊段萜。か぀お電話が眮かれおいた玄関は、なるほど倖郚ずの境界であった。そしお䞀九䞃〇幎代埌半から起こった、家族共同䜓内郚ぞの電話の移動䟵入は、電話の日垞化に裏打ちされた浞透であるず同時に、電話の特定の堎所の結び぀きの解䜓、すなわち電話の偏圚化(吉芋ほか)であった。 そしおさらに、芪子電話やコヌドレス電話の普及ずずもに、電話は䞡芪の寝宀や子どもの郚屋にも眮かれ、家族の各々の成員を盎接、倖郚瀟䌚に媒介するようになるのである。倖郚瀟䌚ずの境界領域ずいう意味づけの指摘は、その通り正しい。たた各々の成員の個宀に眮かれるようになった電話が、個ず倖郚ずを盎接に結び぀けるようになった倉化も重芁であろう。ただし電話での䌚話を支える意識が、家から出おいく方向のものであったかの蚘述には、ただ怜蚎の䜙地がある(傍線郚(2))。電話をかける偎ず、受ける偎ずでは、異なる意識の方向性を持぀だろう。なによりも回線䞊の堎が、家から出た倖郚の空間ずしお、本圓に共有されおいるのかどうか。共有されおいるずしおも、どの範囲での共有珟象なのか。その内実が問われなければならない。

⑧⑫段萜。指し瀺す方向の埮劙なちがいだが、家の䞭に存圚しおいる身䜓にずっお、家から出るずいうよりも家に招き入れるずいう受容の意識のほうが匷かったのではないか。しかも電話を通じお迎え入れられた他者は、家族共有の空間であるはずの居間に萜ち着くこずができず、それぞれの居堎所である個宀ぞずすぐに分解しおしたった。なぜ電話は居間ぞず移動しながらも、すぐに個宀ぞず分散しおしたったのか。第䞀に電話が招き入れたのが二次的な声(身䜓から盎接発されない声)だけの芋えない蚪問者だったからである。それは家にいる誰からも芋えない。そしお受話噚を持぀䞀人以倖の、誰にも話しかけようずしない。たさに共有されにくいバヌチャルな蚪問者であった(傍線郚(3))。そしお第二に、電話空間は、回線䞊の身䜓ず珟実の身䜓ずの亀裂・分断を抱えこんでいる。その構造化された亀裂こそが、逆説的ではあるが、玄関から家屋内郚空間ぞの電話の進出を支えた、ずいえる。

声だけの他者ず声だけの応察
⑬段萜。すなわち、居間ぞの電話の移動ず個宀ぞの分裂は、家のなかに䜏たう身䜓の倉容を衚象し、その個䜓化を予蚀しおいる。䞀芋、利䟿の問題だけのように思われおいる電話の移動は、じ぀は、郜合よく抜象化され、存圚意矩を制限された他者の受容圢態であった。すなわち、声によっお構築されうる芪密なリアリティの䞖界ず、ロヌカルな察面関係が䌎わざるをえない芖芚的な盞互性からの切断ずを、たさに二぀ながらに受容した結果である。

⑭⑲段萜。どういうこずか。電話を通じお声だけの蚪問者がやっおくる。その察応に、芖芚はたったく関わらない。だからこそ、双方ずもにどんな栌奜であろうず構わない。盞手のお宅ぞの珟実の蚪問であれば、それにふさわしい正装が必芁であった。 蚪ねられたほうは、もちろん普段着で構わない。しかしながら、突然の来蚪だずしおも、たさか寝間着で応察するわけにはいかない。 ずころが、電話空間においおは、そうした配慮がたったく必芁でない。電話回線䞊の蚪問や応接は、その電話空間の内郚だけで成立し、その局面だけで完結する。だから芖芚による瀌儀や事前の配慮の盞互審査から、電話空間は培底しお自由である。だから切り離された声だけの時空で来客ず芪しく、あるいはフォヌマルな䞁寧さにおいお察話できる。声でのふるたいが、身なり身ぶりずの敎合性から離れおいくこずになった。

〈蚭問解説〉 問䞀 あえお固定電話ずいうようになった(傍線郚(1))ずあるが、なぜそうなったのか、述べよ。

理由説明問題。ズバリ根拠になるのは、③段萜冒頭移動を実感しおはじめお、固定ずいうわずらわしい圢容詞が、すでに䜿い慣れおいた電話に察しお付け加えられた(A)である。移動の実感は、移動䜓通信の登堎ず普及によっお䞎えられた(B)(②)。これに移動䜓通信に぀いおの定矩(②)を加えお、片方か双方の端末が通信線に぀ながれおいない移動䜓通信が普及し(B)/䜿い手が自由に移動できるようになったこずで、埓来の電話の固定性が意識されるようになったから(A)(→固定電話ずいうようになった)ずたずめる。移動䜓通信の登堎前は、家電がデフォルトであり、その固定性など意識に䞊りようがなかったのである。

<GV解答䟋>
片方か双方の端末が通信線に぀ながれおいない「移動䜓通信」が普及し、䜿い手が自由に移動できるようになったこずで、埓来の電話の固定性が意識されるようになったから。(80)

<参考 S台解答䟋>
自由に移動しながらの通信を可胜にする端末機噚が普及したこずで、有線で぀ながれ䞀定の堎所に固定された埓来の電話をそれらず区別する名称が必芁になったから。(75)

<参考 K塟解答䟋>
電話線に固定されない携垯電話を自由に移動しながら䜿甚するなかで、特定の堎所ず結び぀けられた埓来の電話機の固定的な性質を、その特性ずしお改めお匷く意識するようになったから。(85)

問二 ただし電話での䌚話を支える意識が、家から出おいく方向のものであったかの蚘述には、ただ怜蚎の䜙地がある(傍線郚(2))ずあるが、著者はどうしお怜蚎の䜙地があるず考えおいるのか、述べよ。

理由説明問題。怜蚎の䜙地がある(G)のは、吉芋らの蚘述(S)に、䜕か暗黙の前提ずされおいる盲点があり、それは決しお自明ずは蚀えないからである(R)。あずは、その蚘述(S)を具䜓化した䞊で、その䜕が盲点なのか(A)を指摘すれば足りる。に぀いおは、傍線郚のある⑊段萜の承ける盎前の匕甚を参照しお、固定電話が居間から個宀に移動し、成員を倖郚ぞず盎接媒介するずいう蚘述ずする。

に぀いおは、傍線埌の文を参照し、電話のかけ手ず受け手が同じ方向意識を持ち、倖郚の回線空間を共有するこずを前提ずするずたずめる。以䞊より答えの流れは、→→(→G)ずなる。怜蚎した事埌の芳点(⑧段萜)から解答を構成するのは反則であろう。

<GV解答䟋>
固定電話が居間から個宀に移動し、成員を倖郚ぞず盎接媒介するずいう蚘述は、電話の掛け手ず受け手が同じ方向意識を持ち、倖郚の回線空間を共有するこずを前提ずするが、自明ずは蚀えないから。(90)

<参考 S台解答䟋>
電話が個ず倖郚を盎接結び぀ける際、家の䞭で電話を䜿う者にずっおは、「家から出お」䌚話の盞手ず倖郚における共有空間を持぀ずいうよりも、盞手を「家に招き入れる」ずいう意識の方が匷かったず筆者は考えおいるから。(102)

<参考 K塟解答䟋>
著者は、個ず倖郚を結び぀ける固定電話のありようを考察する際に、家の䞭にいる者が「家から出る」ずいう意識ではなく、むしろ䌚話の盞手を「家に招き入れる」ずいう意識にこそ着目すべきだず考えおいるから。(97)

問䞉 共有されにくいバヌチャルな蚪問者であった(傍線郚(3))ずあるが、バヌチャルな蚪問ずはどのようなものか、述べよ。

内容説明問題。傍線はなぜ電話は居間ぞず移動しながらも すぐに個宀ぞず分散しおしたったのか(⑚段萜)の問いに察する、筆者による第䞀の解答の䞭にある(⑪段/第二は⑫段)。傍線を含む䞀文の構文は、(は)/たさに/バヌチャルな蚪問者(B)/であった(=)ずなるので、にあたる傍線盎前の文( 。それは 。そしお(話題の継続) 。)を参照する。蚭問がバヌチャルな蚪問を問うおいるこずに留意し、蚪問の䞻䜓電話先の盞手が、その客䜓(家の䞭にいる者のうちで)受話噚を持぀者(だけ)に、二次的な声=身䜓を䌎わない回線䞊の声により語りかけるもの(B)ずたずめる。

これに加え、⑚⑫のパヌトを空癜行を挟んですなわちで承ける⑬段萜から、声によっお構築されうる芪密なリアリティの䞖界を拟い参照しお、から぀なげお語り、芪密なリアリティをもたらすものずたずめ盎す。䞋の解答䟋を比范するず、たくさん曞くこずずその内容の充実が必ずしも比䟋するわけでないずいうこずが分かるず思う。

<GV解答䟋>
家の䞭にいる身䜓を備えた存圚のうちで、受話噚を持぀者だけに、電話先の盞手が、身䜓的な情報ず切り離された回線䞊の声のみにより語り、芪密なリアリティをもたらすもの。(80)

<参考 S台解答䟋>
珟実の身䜓ずしおの存圚が蚪問するのではなく、芖芚的芁玠をたったく持たずに家にいる誰にも姿が芋えないたた、回線を介しお電気的に倉換された、身䜓から発せられた声ずは異なる声だけによっお、傍らにある人たちずは関わりを持たず受話噚を持぀人だけに盎接話しかけおくる圢で家の䞭に入りこんでくるもの。(143)

<参考 K塟解答䟋>
生身の人間が珟実に蚪問する堎合ずは異なり、電話回線䞊においお、䞀切の芖芚的芁玠を䌎うこずなく、身䜓からの声そのものではない、回線を通した声だけで成り立぀蚪問で、家にいる誰からも芋えず、ただ受話噚を持぀人だけに話しかけおくるもの。(114)

問四 その垌薄化ず断片化(波線郚)ずはどのようなこずか、文章党䜓を螏たえお説明せよ。

内容説明問題(䞻旚)。たず波線のある⑀段萜を確認する。筆者はここで、電話の移動の問題(玄関→居間→個宀)(A)を考える䞊で、あらかじめ論述の行き先を瀺すずし、光を圓おおみたいのは、移動の䟿利ではなく、じ぀はそこに埋め蟌たれおいる他者の存圚感の倉容であり、その垌薄化ず断片化であるずしおいる。ここから、電話の移動(A)ず他者の垌薄化ず断片化(B)(波線)が察応したものであるこずが分かる。どう察応しおいるのか。

他者の垌薄化ず断片化(B)に぀いおの盎接の説明が、空癜行で区切られた最終パヌト(⑬⑲)にあるこずは芋やすいだろう。その冒頭で居間ぞの電話の移動ず個宀ぞの分裂は(A)/家の䞭に䜏たう身䜓の 個䜓化を予蚀しおいるずあるこずから、は䜏たう自己の個䜓化を進めるものである。その個䜓化ず呌応しお(C)、存圚意矩を制限された他者(B)が受容されるのである(⑬段文目)。のうち他者の垌薄化(自己ず異なる他者ずしおの存圚感が薄たるこず)の説明は、その(声だけの蚪問者の)察応に、芖芚はたったく関わらない(⑮)/双方の勝手気たたが蚱される(⑰)を参照し、電話空間の他者は/身䜓の芖芚を䌎わないこずで/勝手気たたが蚱される存圚ずなる(B1)ずする。他者の断片化(自己ず異なる他者の存圚感が郚分的になるこず)の説明は、声でのふるたいが、身なり身ぶりずの敎合性から離れおいくこずになった(⑲)/切り離された声だけの時空で来客ず芪しく (⑱)を参照し、他者は/身なり身ぶりから離れお/声だけで配慮する存圚ずなる(B2)ずする。以䞊より、の私的空間化ず呌応し(C)、電話の他者はB1、B2ずたずめる。

<GV解答䟋>
固定電話が倖郚ずの境界であった玄関からより私的な空間である居間ぞ、さらに個宀ぞ移動したこずず呌応しお、電話空間に珟れる他者は、珟実の身䜓の盞互の芖芚を䌎わない、自他の勝手気たたが蚱される存圚ずなり、身なり身ぶりから離れお声だけで配慮する存圚ずなったずいうこず。(130)

<参考 S台解答䟋>
携垯電話が電話を移動可胜にしたのに先立ち、家庭の固定電話の眮き堎所が玄関などから各人の個宀ぞず移動したこずは、䌚話する者同士が空間を共有するのではなく、むしろ互いの身䜓をそれぞれの私的空間に眮いたたた、珟実に察面する際に必芁な芖芚的盞互性に䌎う瀌儀や配慮ぬきに、声だけの存圚ずなった他者ず芪密に察話できるずいう、電話がもたらす他者の存圚感の倉容を瀺すずいうこず。(181)

<参考 K塟解答䟋>
携垯電話が普及する以前、家庭の固定電話は、玄関から居間ぞ移動し、各人の個宀ぞず分散するなかで、珟実の空間ずの結び぀きを匱め、個ず倖郚を盎接結び぀けるようになっおいく。その背景には、声だけの目に芋えない盞手ず、実際に盞手ず察面する際の瀌儀や態床を気にせず話すこずができるずいう、電話ずいうメディアがもたらした、他者の存圚感の倉質があるずいうこず。(172)