〈本文理解〉

出典は伊藤徹『芸術家たちの精神史一日本近代化を巡る哲学一』。要旨は以下の通り。
テクノロジーは問題解決の過程で新たな問題を作り出し、それをまた新たな技術開発によって解決しようとする(設問一)。その自己展開の中で、主体であったはずの人間は、テクノロジーが可能にした新たな事態に投げ込まれ、一方でテクノロジーは行為規範を指示しないから、個々に困難な倫理的判断を迫られる(設問二)。そこで、例えば「医療倫理」や「環境倫理」などが議論されるが、そうした倫理を包括的に基礎づける論理は存在しえない(設問三)。そういう意味で、我々は普段意識することのない自明性を当てにして行為を選ぶが、テクノロジーがもたらす新たな事態は、その自明性が普遍妥当性を欠く虚構に過ぎないことを露わにする。しかし、人間の生全体が虚構に支えられる以上、テクノロジーの際限ない展開は、新たな虚構(制度)の産出を強い、我々の生のあり方を根本から変えていくのである(設問四)。

<設問解説>設問(一) (内容説明問題)

「科学技術の展開にはa/人間の営みでありながらb/有無をいわせず人間をどこまでも牽引していく不気味なところがあるc」に分けて言い換える。aは①段落の冒頭文を圧縮する。bで「人間の主体性」を指摘し、それが「科学の自己展開に巻き込まれていき主体性を奪われる」という形でcの不気味さを表現する。

設問(一) (60字程度)

<GV解答例>
問題解決を目指す過程で新たな困難を生み、その克服を図るという科学技術の自己展開に、主体であるはずの人間が巻き込まれるということ。(64字)

<S台解答例・速報版>
人間が問題を解決するための科学技術が新たに想定外の問題を生み、その解決のための発展を際限なく人間に強いてくるということ。(60字)

<K塾解答例・速報版>
困難を人間の力で解決するための科学技術が問題を作り出し、その技術的な解決へと人間を駆り立てつつ、技術では扱えない難題さえ生み出すこと。(67字)

設問(二) (内容説明問題)

「単なる道具としてa/ニュートラルなものにb/留まりえないc/理由」に分けて言い換える。「理由」を言い換える為に、傍線の直前「(テクノロジーが)「すべきこと」から離れているところ(A)に」も加えると「AにBの理由がある」となるから「AゆえにBだ」という形で言い換えられる。④段落のテクネーの二つの要素に着目して、aは「できること」を増やすもの、bは「するべきこと」から独立している、と言い換え、Aの位置におく。cは⑥段落の一文「行為者として…決断せざるをえない」を利用しBの位置におく。

設問(二) (60字程度)

<GV解答例>
行為の可能領域を広げる科学技術は、行為規範とは独立しているゆえに、新たな領域に直面した個々人に困難な倫理的判断を強いるということ。(64字)

<S台解答例・速報版>
目的や価値とは独立に人間の可能性を広げるテクノロジーが、新たに人間の内に欲望を呼びさましその倫理的判断を迫るということ。(60字)

<K塾解答例・速報版>
科学技術は行為の妥当性に囚われないために新たな可能性を次々に切り拓き、その行為に関して倫理の基準を新たに問う必要を生じさせるということ。(68字)

設問(三) (理由説明問題)

「実践的判断がS」と「虚構的なものでしかないG」をつなぐ。傍線部の直前に「そういう意味で」とあるから、その指示内容が基本的に理由Rとなる。これと直後⑩段落の具体例から「想像力/時と場合によって/可変性」などをピックして「実践的判断を基礎づける論理は、どれも想像の産物で、可変的で普遍妥当性を欠くから(→G)」となるが、これでは容易すぎ。そこで「なぜそうした論理が、つねに普遍妥当性を欠くのか」という根本理由を探す。⑪段落の
「虚構とは、…人間の…生全体に不可避的に関わる」を根本理由と考え、解答の始めにおいた。

設問(三) (60字程度)

<GV解答例>
虚構が人間の生を支える以上、個々の倫理的判断にいかなる論理的基準を見出そうとしても、普遍妥当性を欠いた作為性を消し去れないから。(64字)

<S台解答例・速報版>
実践的判断に究極的な根拠はなく、どのような判断でも、それを導く論理を想像力によって恣意的に構築できてしまうから。(55字)

<K塾解答例・速報版>
行為に関わる判断を最終的に決定する基準を支えるはずの概念自体が確固たるものでありえず、実際その判断は時代とともに変動しているから。(65字)

設問(四) (内容説明型要約問題)

「テクノロジーはa/人間の生のあり方を、その根本のところから変えてしまうb」に分ける。傍線部の直前に「そういう意味で」とあるので、基本的にはそれが受ける直前の二文を、展開上の骨格となる①⑥⑨段落を参考にしながら具体化する。すると「テクノロジーの自己展開→行為の基礎となる虚構性の露呈→虚構性の更新(→b)」という流れが見える。ただし、これではまだbの内実が具体化できてないことに注意しよう。そこで(三)でも利用した「虚構とは、…人間の…生全体に不可避的に関わる」を再利用した上で「テクノロジーが自律的に展開し、それに伴い生の基盤ともなる虚構が更新されると、人間の生は受動的で不安定なものとなる」と導いた。

設問(四) (100字以上120字以内)

<GV解答例>
問題の産出と解決を自律的に展開する科学技術が従来の自明性を切り崩し、個々人の倫理的な判断基準を論理的に支える虚構が際限なく更新される中で、人間の生全体がそうした虚構に依存せざるをえない以上、人間は非主体的で不安定な生を強いられるということ。(120字)

<S台解答例・速報版>
人間の思惑を超えて展開するテクノロジーが、これまで人間の生の支えとなってきた自然をも人為で操作可能なものにしその虚構性を露わにしたため、存在の危機に陥った人間は、変容する世界を生きるための新たな虚構を生み出し続けるしかなくなったということ。(120字)

 <K塾解答例・速報版>
かつては不可能であった行為を科学技術が可能にし、そこに是非を判断すべき領域が広がることで、それまで信じられていた倫理が虚構であることが露呈し、判断基準の虚構性を自覚しつつも、新たな難題に対処するための虚構を産出し続けざるを得なくなったこと。(120字)

設問(五)

a耐性 b救済 c余儀

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