目次

    1. 〈本文理解〉
    2. 〈蚭問解説〉問䞀 その努力には、いろいろな蚘憶や䞀般芳念がい぀もしきりず揎助を送っおくれる(傍線ア)ずはどういうこずか、説明せよ。(60å­—çš‹)
    3.  問二 家を芋䞊げるこずは、歩いおいる私の身䜓がこの坂道を延びおいき、家の衚面を包んでその内偎を䜜り出す流䜓のようになるこずである(傍線郚む)ずあるが、家を芋䞊げるずきに私の意識の䞭でどのようなこずが起きおいるずいうのか、説明せよ。(60字皋床)
    4. 問䞉 私たちの芖芚が䞖界に挿し蟌む静止(傍線郚り)ずはどういうこずか、説明せよ。(60字皋床)
    5. 問四 これは、恐ろしい事実である(傍線郚゚)ずあるが、なぜこの前の文にいう芖芚の事実が恐ろしい事実だず感じられるのか、説明せよ。(60字皋床)

〈本文理解〉

出兞は前田英暹『深さ、蚘号』。

①段萜。知芚は、知芚自身を超えお行こうずする䞀皮の努力である。この努力は、たったく生掻䞊のものずしお為されおいる。(䟋/目の前の壺。私はこの壺が網膜に映るものだけずは芋なさず、芋えない偎の匵りや䞞みや色さえも芋ようずし、実際芋おいるず蚀える)。芋えるものを芋るずは、もずもずそうした努力なのだ。なるほど、その努力には、いろいろな蚘憶や䞀般芳念がい぀もしきりず揎助を送っおくれる(傍線郚ア)から、人は䞀䜓どこで芋るこずが終わり、どこから予枬や思考が始たるのか、はっきり蚀うこずができなくなっおいる。けれども、芋るこずが、玔粋な網膜䞊の過皋で終わり、埌には玔粋な知性の解釈が付け加わるのだず思うのは、行き過ぎた䞻知䞻矩である。

②段萜(行き過ぎた䞻知䞻矩ぞの批刀)。

③段萜。メルロ=ポンティの知芚の珟象孊は、芖えるこずが〈意味〉に向かい続ける身䜓の志向性ず切り離しおは決しお成り立たないこずを実に巧みに語っおいた。自分が登っおいる䞘の向こうに芋える䞀軒家。家の正面はわずかに芋えおくる偎面ず芋えないあちら偎ずの連続的な係わりに正面でありうる。歩きながら、私はそういう党䜓を想像したり知的に構成したりするのではない。䞘を芋䞊げながら坂道を歩く私の身䜓の䞊に、家はそうした党䜓ずしお吊応なくその奥行きを、〈意味〉を顕しおくるのである。家を芋䞊げるこずは、歩いおいる私の身䜓がこの坂道を延びおいき、家の衚面を包んでその内偎を䜜り出す流䜓のようになるこずである(傍線郚む)。流䜓ずは、私の身䜓がこの家に察しお持぀止めどない行動可胜性にほかならない。

④段萜。19䞖玀埌半から人類史に登堎しおきた写真、そしお映画は、芋るこずに぀いお長い人類の経隓に極めお深い動揺を䞎えた。肉も神経もなく、行動も努力もしない機械が物を芋る
時、䜕が起こっおくるのか。リュミ゚ヌル兄匟によっお驚くべきスナップ写真が生たれおきた時、人はそれたで決しお芋たこずのなかった䞖界の切断面を芋たのである。

⑀段萜。写真機で撮ったあらゆる顔は、どこかしら劙なものである。顔は刻々に動き、倉化しおいる。倉化は無数のニュアンスを持ち、ニュアンスのニュアンスを持ち、静止の瞬間など䞀切ない。私たちの日垞の芖芚は、そこに盞察的なさたざたの静止を持ち蟌む。それが、生掻の芁求だから。写真ずいう知芚機械が瀺す切断はそんなものではない。この切断は䜕のためでもなく為され、しかもそれは私たちの芖芚が䞖界に差し蟌む静止(傍線郚り)ず范べれば桁倖れの速さで為される。

⑥段萜。写真のこの非䞭枢的な切断は、私たちに䜕を芋させるだろうか。持続し、限りなく倉化しおいるこの䞖界の、いわば倉化のニュアンスそれ自䜓を匕きずり出し、䞀点に凝結させ、芋させる。私たちの肉県は、こんな䞀点を芋たこずはない、しかし、持続におけるそのニュアンスは経隓しおいる。生掻䞊の意識がそれを次々ず闇に葬るだけだ。写真は無意識の闇にあったそのニュアンスを、ただ䞀点に凝結させ、実に単玔な芖芚の事実にしおしたう。これは、恐ろしい事実である(傍線郚゚)。

〈蚭問解説〉問䞀 その努力には、いろいろな蚘憶や䞀般芳念がい぀もしきりず揎助を送っおくれる(傍線ア)ずはどういうこずか、説明せよ。(60å­—çš‹)

内容説明問題。傍線郚のどの郚分の蚀い換えに重点を眮くか。いろいろな蚘憶や䞀般芳念が 揎助を送っおくれるの郚分は、本文に蚀い換え芁玠もないし、そのたたでも特に理解に困らない。ポむントは傍線始めの、その努力である。この説明に重きを眮くために、傍線の構文を前埌入れ替え、人間は/いろいろな蚘憶や䞀般芳念を手がかりに/その努力をするずする。内容説明型の問題では、傍線内容を分かりやすく説明し盎すこずが求められおいるのだから、そのために構文を倉えおも構わない(構文倉換/同内容)。構文を倉えずに逐語的に眮き換えるべきだ、などずいう教えは知を向䞊させない。読める皋床の小さい字でできるだけたくさん芁玠を詰め蟌むべきだ、などずいう幌皚な教えず䞀緒に犬にでも喰わせおしたおう。

それでその努力だが、①段萜䞀文目(知芚の)知芚を超えお行こうずする 努力である。具䜓的には、䞉、四文目の具䜓䟋より芋えない偎も含めお/察象を党䜓ずしお把握しようずするこずである。たた、それは二文目より生掻䞊のものずしお行われる。蚘憶/䞀般芳念は、自力で経隓的知識/抜象的知識ずした。

<GV解答䟋>
人間は、生掻を円滑に送る䞊で、網膜に映る像に察象に぀いおの経隓的・抜象的知識を加えながら、党䜓的知芚を貫培しようずするずいうこず。(65)

<参考 S台解答䟋>
人間の知芚が、感芚に受けた刺激を超えお察象の党䜓をずらえる働きには、過去の経隓や既成の知識がかかわっおいるずいうこず。(59)

<参考 K塟解答䟋>
人の知芚が芋えない郚分をもずらえようずする際、過去の経隓や瀟䌚的通念が、垞にそうした知芚を支えおいるずいうこず。(56)

<参考 T進解答䟋>
物事を知芚するずは、その知芚自身を超越しようずするこずであっお、知芚する瞬間にはたえず、過去に埗たむメヌゞや、知性の解釈による補充が行われおいるずいうこず。(78w)

問二 家を芋䞊げるこずは、歩いおいる私の身䜓がこの坂道を延びおいき、家の衚面を包んでその内偎を䜜り出す流䜓のようになるこずである(傍線郚む)ずあるが、家を芋䞊げるずきに私の意識の䞭でどのようなこずが起きおいるずいうのか、説明せよ。(60字皋床)

内容説明問題。比喩衚珟を䞀般的衚珟に。もちろん、前埌の内容を螏たえお眮き換えるのだが、そもそも比喩は芖芚的なむメヌゞにより事象をありありず瀺す修蟞だから、玠盎に再珟しおみるずよい。ここでは、身䜓が流䜓のように家たで延びおいき、芋えない偎も含めお家を包んで党䜓ずしお把握する、ずいうこずだ。それは、傍線前文(前半)にあるように、芋える偎から党䜓を想像したり知的に構成したりするのではなく、たさに身䜓的に把握するのである(䟋えば、意識以前に身䜓は歩き方を知っおおり(身䜓的知)、すでに歩いおしたっおいる(身䜓の䞻䜓性))。加えお、傍線前文(埌半)ず同③段萜䞀文目より、身䜓が察象に向かう/察象は意味を顕しおくるずいう内容を螏たえたい。

以䞊をたずめるず、目の前の家を䞀地点から知的に構成するのではなく/歩き芋䞊げる行為に䌎い/察象(家)は身䜓に意味を珟しながら/身䜓は察象(家)を党䜓ずしお把握・䜓隓するずいうこずである。

<GV解答䟋>
歩き芋䞊げるずいう行為により、䞀地点からの単なる知的な構成ではなく、家の党䜓像が身䜓の䞭に意味を珟し぀぀䜓隓されおいるずいうこず。(65)

<参考 S台解答䟋>
䞘の向こうの家が、そこで生掻を営む倚様な可胜性を垯びお自分の身䜓ず䞀䜓化した、意味ある党䜓ずしお珟れおくるずいうこず。(59)

<参考 K塟解答䟋>
芋える郚分から家党䜓を想像し構成するのではなく、人が䜏むための奥行きを持぀党䜓ずしお、身䜓を通じおその〈意味〉が䞀気に把握されるずいうこず。(70)

<参考 T進解答䟋>
䞘の䞊の䞀枚の板のように芖える存圚を、そこたで移動しおその内に身を眮くずいう、身䜓的な行動可胜性を通じお党䜓的な意味を顕す存圚ずしお認識するずいうこず。(76w)

問䞉 私たちの芖芚が䞖界に挿し蟌む静止(傍線郚り)ずはどういうこずか、説明せよ。(60字皋床)

内容説明問題。④⑥段萜は、人間の芖芚ずカメラの芖芚の察比ずなっおおり、問䞉では人間の芖芚を、問四ではカメラの芖芚をそれぞれ問う。本問は、人間の芖芚が差し蟌む静止(A)ずその客䜓ずしおの䞖界(B)を説明すればよい。に぀いおは、⑀⑥段萜より持続しながら/刻々ず倉化し/無数のニュアンスを展開するずたずめた。に぀いおは、⑀段萜、傍線盎前の蚘述により人間は/生掻の芁求から(→生掻の必芁に応じお)/盞察的な(→恣意的に)/静止を持ち蟌み(→切れ目を入れ)/芋るずたずめた。

<GV解答䟋>
持続しながら刻々ず倉化し無数のニュアンスを展開する䞖界に察し、人間は自らの生掻の必芁に応じお恣意的に切れ目を入れ、芋るずいうこず。(65)

<参考 S台解答䟋>
日垞生掻で身䜓が察象を知芚する必芁䞊、本来限りなく流動し続けおいる䞖界を、芖芚は䟿宜的に静止させおずらえるずいうこず。(59)

<参考 K塟解答䟋>
刻々ず動き倉化する䞖界の䞭で、人々が日垞的な生掻の必芁にもずづき、その倉化の䞭から特定の印象を切り取っお、静止しおいるものずしおずらえるこず。(71)

<参考 T進解答䟋>
時間の経過のなかで、䞀切静止ぜずに倉化を続ける䞖界に察しお、我々が生掻䞊の必芁から、止たっお芋えるものずしおいる、盞察的に静止しおいる状態のこず。(73)

問四 これは、恐ろしい事実である(傍線郚゚)ずあるが、なぜこの前の文にいう芖芚の事実が恐ろしい事実だず感じられるのか、説明せよ。(60字皋床)

理由説明問題。写真のもたらす恐ろしさ(G)を説明すればよい。理由説明は、(理由の着地点)を意識し、そこから逆算しお、そこに萜ち着く䞭心的理由を探っおみればよい。それは、傍線盎前より生掻䞊の意識から無意識の闇ぞず排陀したニュアンス(A)を/写真(のメカニズム)が䞀点に凝結させ人間に突き぀けるから(→G)ずいうこずになる。

ここでに぀いおは、さらに傍線より遡りこんな䞀点を芋たこずはない/しかし持続におけるニュアンスは経隓しおいるを参照する。問䞉で考察したように、人間の芖芚はひず぀ながりに展開する事象を、生掻䞊の必芁に応じ切れ目を入れ芋るずいうこずだった。぀たり、人間はそこで展開するニュアンスを芋るこずはないが、知芚的経隓の内にそれはあったのである。そしお無意識の闇ぞず排陀されたそれを、写真は改めお突き぀けるのだ。しかも、その写真(のメカニズム)は、肉も神経もなく/行動も努力もしない(â‘€)非䞭枢的な切断(⑥)より、無機的・無感情なものであるから、空恐ろしさが䜙蚈に増すのである。

<GV解答䟋>
知芚的経隓の内にありながらも生掻を成立させるために無意識ぞず陀倖した事象が、無感情な写真の機胜により吊応なく県前に提瀺されるから。(65)

<参考 S台解答䟋>
時間を機械的に切断しお芋せる写真は、人間が付䞎した生掻䞊の意味ず無関係な、䞖界それ自䜓の倉化の盞を顕圚化させるから。(58)

<参考K塟解答䟋>
身䜓を持たない機械がもたらす映像は、人が無意識の領域に抑圧した䞖界の倉化の䞀瞬ずいう、知芚を越えたものを、䜕の目的もなく芋せ぀けるから。(68)

<参考 T進解答䟋>
人が経隓し぀぀も日垞の意識では捉えられずに無意識領域に送られおいた倉化し続ける䞖界の倉化のニュアンスそのものを、時間を切断する写真により突き぀けられたから。(78w)