〈本文理解〉

出典は桑子敏雄『風景のなかの環境哲学』。
「内容」面の補足はできるだけ控えて「形式」面に着目して、本文の概要をつかむ。
①~④段落(意味段落Ⅰ)、河川の体験について。人間は、本質的に身体的存在であることで空間的経験を積む。河川の体験は、流れる水の様態の体験であると同時に「身体的移動のなかでの風景体験」(傍線部ア)である。この後「河川の体験」について以下のように説明を重ねる。「そこを移動する身体に出現する風景の多様な経験」「ひとは歩道を歩きながら、川を体験し…背景となっている都市の風景を体験し…そこを歩く自己の体験を意識する」「河川の体験とは、河川空間での自己の身体意識」「風景とは…身体に出現する空間の表情」「風景の意味はひとそれぞれによって異なっている」「風景の知覚が…多様な経験を与える」云々。
⑤~⑧段落(意味段落Ⅱ)、身体空間と概念空間との対比。固定化された概念による空間の再編は、それが指示する行為以外の可能性を排除する。「この排除は…。それは」「本来身体空間であるべきものが概念空間によって置換されている事態」(傍線部イ)と捉えることができる。
川は、未知なる過去と未知なる未来を結ぶ現在の風景である。河川の空間に求められているのは、新しい体験や発想が生まれでるような創造的空間である(=身体空間)。
⑨⑩段落(意味段落Ⅲ)、河川空間の自発性。河川工事の竣工は、河川の空間が育つ起点となる。「それは庭園に類似している」(傍線部ウ)。樹木の植栽は、育成の起点だからである。川は、長い時間の中で、自然の力と人間の手助けによって、個性をもつことができるのである。
⑪~⑬段落(意味段落Ⅳ)、河川空間の時間性。「河川の空間は、時間な経過とともに履歴を積み上げていく」(傍線部エ)。その履歴が空間に意味を与える。一方、概念的コントロールによる意味付与は、風景に接したひとが自由な想像力で固有の履歴を積み上げることを阻害する。
時間を意識させる河川の空間は、多くの人びとの経験の蓄積と自然の営みを含み、またそこに立ち会うひとが固有の履歴を構築する基盤ともなる。
風景は、その人の経験の積み重ね、そのひとの履歴と、空間に蓄積された履歴との交差により構築される。「風景こそ自己と世界、自己と他者が出会う場である」(傍線部オ)。

〈設問解説〉設問(一)「身体的移動のなかでの風景体験」(傍線部ア)とはどういうことか、説明せよ。(60字程度)

内容説明問題。近いところから。「河川の体験は、流れる水と水のさまざまな様態の体験(※視点の固定/外的体験)である。と同時に『身体的移動のなかでの/風景体験』(※視点の変化/内的体験)である」となっている。ここから、傍線部アは、主語が「河川の体験」であり、その体験のうち「身体の移動に伴う/内的体験」(④段落一文目も参照)を表していることが分かる。
同じ意味段落Ⅰから「河川の体験」について言及しているものを抽出する。これは〈本文理解〉を参照してほしい。大筋としては「身体の移動に伴う/川とその背景の風景の変化を/意識にとりこみ/人それぞれの意味を見いだす」(身体移動による視点の変化→風景の変化→内的意識の変化)ということ。差がつくポイントは、解答の締めを「意識にとりこみ意味世界を広げる」など内的体験として説明しなければならないところだ。

<GV解答例>
河川に沿って歩くことで、河川とその背景の風景が広がり変化していく様を、知覚を通して意識にとりこみ、自己の意味世界を広げていくこと。(65字)

<参考 S台解答例>
人は川の流れに沿って歩くことで、移りゆく風景の多様性を、共に変化する自己の意識の体験として、身体で感受するということ。(59字)

<参考 K塾解答例>
川に沿って動くときに、さまざまな表情を見せながらうつろう川とその周囲の光景を、個人がそれぞれの身体感覚を通して受け止めること。(63字)

設問(二)「自然賛美の抒情詩を作る詩人は、いまや人間の精神の素晴らしさを讃える自己賛美を口にしなければならなくなった」(傍線部イ)とあるが、なぜそのような事態になるといえるのか、説明せよ。(60字程度)

内容説明問題。「置換されている」ではなく「置換されている事態」にまで線が引かれていることに注意しよう。前者ならば「A空間がB空間に置き換わる」としか言いようがないが、後者なら「含み」がありうる。
「事態」は傍線部を含む一文の主語「それ」と対応し、その指示内容は前文の主語「この排除」である。「この排除」とは「固定化された概念が指示する行為以外の可能性の排除」である。ならば傍線部の「事態」とは「身体空間には担保されていた行為の可能性(a)」が「固定化された概念(b)」によって「排除されること(c)」である。
a要素については⑦⑧段落より「未知なる自然に触発された(a1)/多様な体験の可能性(a2)」を抽出し、それが「身体を媒介」としたものだという点を加える。b要素は、a要素と対比的に、⑤段落の具体例から「一定の合理性に基づき(b2)/予め設定された概念(b1)」とする。その概念により「個々の体験の可能性は一義的に限定される(c)」のである。

<GV解答例>
個々の身体を媒介に未知なる自然に触発され広がる体験の可能性が、一定の合理性に基づき予め設定された概念により一義的に限定されること。(65字)

<参考 S台解答例>
人間が身体によって出会うはずの未知なる自然が、固定化された概念で人為的に管理され、貧しい空間になるということ。(55字)

<参考 K塾解答例>
個々の人間の身体に新たな体験をもたらすべき豊かな河川空間が、一部の人間の固定観念によって人の行為を支配する貧相な空間になること。(64字)

設問(三)「それは庭園に類似している」(傍線部ウ)とあるが、なぜそういえるのか、説明せよ。(60字程度)

理由説明問題。「それ」=河川空間(P)と庭園(Q)が類似している理由。PとQの類比を問う問題で、2012年 第一問 設問(三)が同じような問題だった。本問も〈分離型〉「Pは(p1,p2…)であり、Qは(q1,q2…)である」ではなく〈一括型〉「Aという点でPとQは同じ」で端的に示す。
まず傍線の前後に「竣工は、河川の空間が育つ起点(P)」「植栽は…育成の起点(Q)」とあるので「人間による設定が起点となり/育っていく(P∩Q)」を抽出するのは容易。しかし「どう育つのか」についてはPの側しか触れていない。その場合、Pの記述とQがどこまで重なるのかは、Q(庭園)についての「自明性」をあてにしなければならない(よってイメージできなければ辛い)。
Pについては、⑩段落より「時間をかけて/自然の力で/人間の助けを借りて/個性を実現」が拾える。これはQ(庭園)においても同じだろう。解答では「概念空間」との対比を意識して「自然自身の力で」という点に力点を置いた。

<GV解答例>
人間による空間の設置を起点として、人間との関わりの中で、時間をかけて自然自身が個性を実現していく点で、河川空間は庭園に通じるから。(65字)

<参考 S台解答例>
河川空間は、庭園と同様、竣工をむしろ起点として長い時間をかけた自然の力と人の手助けで初めて豊かな風景となるから。(56字)

<参考 K塾解答例>
河川も庭園も、人為的な整備を基盤としつつ、その後自然の力が長い時間をかけて個性を育成するものであり、人間はその手助けをするだけだから。(67字)

設問(四)「河川の空間は、時間の経過とともに履歴を積み上げていく」(傍線部エ)とあるが、どういうことか、説明せよ。(60字程度)

内容説明問題。河川空間が、時間をかけて「履歴を積み上げ」ることを説明する。同じ意味段落にある設問(五)との「住み分け」を考えて、(四)は「人(と自然の営み)が空間に履歴を加える」(人→空間)に記述を限定し、(五)は「空間が人に履歴を加える」(空間→人)を中心に記述を構成する(もちろん(五)は要約問題なので「人→空間」も前提として加える)。また、⑫段落の締めに「こうして積み上げられた空間の履歴」とあるから、傍線部エが引かれている⑪段落から⑫段落までが、基本的に解答範囲となる。
以上より、傍線部の言い換え自体は「河川空間は、立ち会う人々の経験と自然の営みを含みながら変容していく」くらいで良い。ただ、これでは不十分である。⑪段落末文にあるように、概念空間に接するとき、風景はそれに接した人が「固有の履歴を積み上げるのを阻害」するからである。よって、解答では「概念空間」でないことを明確に示した。
加えて⑫段落より、河川空間は「時間を意識させる空間として存在する」という記述も踏まえた。つまり、河川空間の水の流れは「時の流れ」を象徴し形態化しているということだろう。

<GV解答例>
時の流れを象徴する河川空間は、固定化した概念に支配されない限り、立ち会う人々の経験と自然の営みを含みながら変容していくということ。(65字)

<参考 S台解答例>
河川は、自然と人間の営みの長い蓄積によって、人々に固有の経験を与え得る個性的な意味をもつ風景となるということ。(55字)

 <参考 K塾解答例>
河川が自然の力と人為によって変貌するなかで、人間の多様な経験を可能にするそれぞれの川の個性がかたちづくられていくこと。(59字)

設問(五)「風景こそ自己と世界、自己と他者が出会う場である」(傍線部オ)とはどういうことか、本文全体の論旨を踏まえた上で、100字以上120字以内で説明せよ。

(1) 傍線部を簡単に言い換える。(解答の足場)
(2)「足場」につながる必要な論旨を取捨し、構文を決定する。(アウトライン)
(3) 必要な小要素を全文からピックし、アウトラインを具体化する。(ディテール)

となる。

(1)傍線部は「風景こそ…場である」となっているが、長い文を名詞で締めると文が硬直し、必要な情報が盛り込みにくくなる。そこで、場合によっては構文を入れ換え、同内容を表現すると良い。
「風景の中で、自己は世界と出会い、他者と出会う」(仮)。
ここで「風景」は「河川空間」、「世界」は「河川空間の履歴の総体」、そして「他者」とは「河川空間の履歴の中に含まれている固有の履歴」と捉えておく。

(2)まずは傍線のある⑬段落から。「その人の履歴と/空間に蓄積された空間の履歴との/交差こそが/風景を構築する」が傍線部と重なる。設問(四)でも検討したとおり、人と空間の履歴の交差(人空間)のうち、直前の具体例からも⑬段落では「空間→人」の面に焦点があてられている。ならば前段までの「人→空間」の論旨とどうつなぐか。この時、⑫段落末文に着目できる。
「こうして積み上げられた空間の履歴が/その空間に住み、またそこを訪れるそれぞれのひとが固有の履歴を構築する/基盤となる」
つまり「人→空間」が「空間→人」の「基盤(条件)」となる。これらを踏まえて次のような構文に決定する。
「河川空間が/概念に支配されず(a)/人々の履歴を受容するならば(b)/人は/履歴の総体としての風景と出会い(c)/履歴に含まれる固有の他者を発見することができる(d)」(仮)。

(3)意味段落/設問ごとの考察を利用する。ab要素は(四)の解答を再利用すればほぼ足りるが、a要素に(二)で考察した「概念が空間利用を一義的に決める」こと、b要素に(三)で考察した「自然は人間と協調しながら自身で個性を実現していく」ことを加えよう。
c要素には(一)での考察から「身体の媒介による変化する風景の感受」を、d要素には⑧段落から、風景と他者性の感受により「新しい体験や発想が生まれる(創造性が啓発される)」という要素を加え、解答の結びとする。

<GV解答例>
河川空間が、そのあり方を一義的に決定する概念に支配されず、人々の想像力を受容しながら生成するものならば、人は自らの身体を介して移りゆく風景の多様性を感受し、そこに蓄積された固有の他者性に啓発されて自己の創造性を高めることができるということ。(120字)

<参考 S台解答例>
風景とは、限られた概念によって管理されるべきものではなく、個々人が自己の身体を通して、自然と人間による営みの蓄積と自己の固有の経験とを交差させて共有することで、他者とのかかわりによる新たな体験と発想が生まれる創造的な場であるということ。(118字)

 <参考 K塾解答例>
河川空間の設計に際して重視されるべきものは風景である。それは、人びとの経験や自然の営みの中で変化してきた個々の河川を、固有の身体的経験に即して捉えるところに成立するものであり、そのなかでこそ人は思いもかけない多様な経験をするということ。(118字)

設問(六)

a.跳 b.断片 c.抑圧 d.阻害

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