〈本文理解〉

出典は梨木香歩の小説『雪と珊瑚と』。前書きに「カフェの開業を決意した主人公珊瑚が、「物件」を見に行く場面に始まる一節である」とある。
 
1️⃣ 立花夫妻は、子連れで現れた。
家のことや敷地のことを、一度、現場で説明しよう、と立花義也から連絡が来たので、珊瑚も少し緊張して、定休日、くららに雪を預けて「現場」にやってきたのだった。すると、前回閉まっていた門が大きく開いていて、そこに白いセダンが一台、停まっていた。車種に疎い珊瑚には、どういう車なのか分からなかったが、そこからは何か、「平均的な幸福」といったものが漂っているように思えた。主張がなく、威嚇がなく、敵意を感じさせない。これがいわゆる、ファミリーカーというものなのだろう、と、おおいに感心した。その「感心」には嫌味が混じっている、とすぐに気づく。そういうふうに自分が反応するのは「平均的な幸福」から、遥かに遠いところにいる、という自覚からくる僻みなのかもしれない、情けないことだ、と我に返って頭を振り、一旦その「僻み」を吹き飛ばし、車の横に抜け、「物件」へと向かった。
 
「物件」は、すっかり雨戸が開けられ、二階を含め、窓も開け放たれていた。家の中に、誰かいる気配があった。近づくと、色白で童顔の男性が中から出てきて、「珊瑚さん?」「はい。はじめまして」「はじめまして、立花です」。二人で頭を下げ合っていると、奥から、「いらしたの?」と、声がして、これもまた色白で愛らしい童顔の女性が、「あなたが珊瑚さん。お噂は聞いています」。ニコニコしながら、さっと片手を差し出し、握手を求めた。珊瑚はちょっと面食らったが、おずおずとそれに応じた。「妻の恵です。で、これが」。奥から小さい男の子が走り寄ってきたかと思うと、立花の足にしがみついた。「長男の、カイト、です。もうすぐ二歳」。カイトと呼ばれた男の子は、珊瑚の方を見ながら、立花に手を伸ばす。「カイトくん。どんな字を書くんですか」。立花は、カイトを抱き上げ、「海の人、っえ書いて海人」「ああ。海人。すてきな名前」「海の日に生まれたってだけで‥‥珊瑚さんも、お子さんいらっしゃるでしょう。連れてこられるかと思って、うちも」「ああ、でも、遊び相手には無理かもしれません。まだ八ヵ月ですから」「お名前は」「雪っていうんです。空から降ってくる‥‥」「すてきじゃないですか」「雪の日に生まれたってだけで」。そこで皆で笑った。海の日に生まれた海人は、きょとんとしている。「どうぞ上がってください。そろそろ窓も閉めて、暖かくしましょう。電気ストーブを持ってきたんです」。恵はそう言って、奥へ入り、ガラス戸を閉め始めた。珊瑚も上がってそれを手伝う。義也は二階へ向かった。
 
2️⃣「すてきなご家族だったんです。奥さんの恵さんもとても優しくして下さって‥‥。彼女が義也さんを説得して、結局家賃を十五万にしてくださったんです」「え、それはすごい。よかったじゃないですか」。くららは無邪気に喜んで見せたが、「そうなんです」。珊瑚の顔は浮かない。「何かあったんですか?」。くららの問いかけに、珊瑚はしばらく一点を見つめて黙っていたが、「‥‥嫉妬だと思うんです、結局は」「あら」。くららは面白がっているような顔をした。「どうしてそう思うの」「‥‥ええ」。ええ、と言ったのは、別に何かを肯定したからではなく、ただ、自分の次の言葉への呼び水として発したに過ぎなかったのだが、それでも珊瑚はまだ考えている。くららは珊瑚が語り出すのを待っている。珊瑚は、ようやく、「‥‥多分、彼らは、海人くんが熱を出せば、二人で心配し、相談して考える。チームとして、動ける。週末になれば、今日のように三人でどこかに出かける。日曜日の公園。笑顔と歓声。たぶん、恵さん自身、何の屈託もなくそういうものの中で育った。そして、自分とはかけ離れた、一人で赤ん坊を育て、生活のために開業しようとしている女の話を聞いた。心から同情した。自分にできることはないか、と考えた。そして、その女が少しでも楽になるように、家賃を安くするよう夫に働きかけた」。くららは静かに微笑んでいる。そして、「そうね、まちがいなく、そんなところでしょう。それがどうしていけないの」。珊瑚は黙っている。「施し、みたいに感じますか?」。くららの言葉に、珊瑚は大きくため息をついた。「そういうことなんだと思います」「そう?私には、彼女の、あなたに対する尊敬もあると思うけど」。珊瑚は激しく首を振る。「同情です、まちがいなく。私が、雪と二人で生きていく、それだけのことが、人の同情を呼ぶ。そのことに、うすうすは気づいていました。くららさんだって、本当のところ、そうだったんではないですか。いいえ、そのことを、決して責めているんじゃないんです。ものすごく、ありがたいことだと思ってるんです、本当に。ただ、なんというか‥‥。そういうことに頼って生きていくような自分が嫌なんです」。それだけ言うと、俯き、両手を合わせて額を支えた。くららはしばらく黙って珊瑚を見つめていたが、「今までは、でも、そういうことにそれほど、なんというか、アレルギー反応みたいなものは出なかったでしょう。今日、『恵さんの優しさ』で、一気にそれが意識の表に出てきてしまった、ということなのかしら」「多分」。「アレルギー反応、っていう言葉はぴったりかもしれない、と珊瑚は心の中で思った」(傍線部(ア))。
 
3️⃣ くららは、そう、とうなずき、「なんでも外国の例を持ち出すのが馬鹿げているということは分かっているけれど、自分たちの文化や感じ方がすべてなんだって、思い込まないですむようにするためには、いろんな人たちがいることを知るのは、役に立つと思うの」と、低く優しい声で話し始めた。「『若草物語』に、クリスマスの朝、四姉妹が楽しみにしていたごちそうを、母親に言われてそのまま、街の貧しい人たちに持っていくところがあるでしょう。あの四姉妹は、ずっと楽しみにしていたことだけに、残念でならないと思ってもいるけれど、清々しい思いもする。欧米の国々の中にはね、自分たちがいつも施す側だと思っているところが多かった。やらなければならないという義務感だけで黙々とやってきたにしても、正しいことをやっているという気持ちのよさがあることは否めない。…問題は、人類が生まれてから、ずっと、ありがとうございます、とお礼を言いつつ施される側にあった人々のことです。感じていたのは感謝だけとは思えない。ごく稀にはそれだけのこともあるだろうけれど、大かたは、六割の感謝、二割の屈辱感、二割の反感、みたいなものだったろうと思います。けれど、それでも生きていかないといけない、という現実が、彼らに頭を下げさせる。『施す側』の中の、センスのいい人々は、なんとなくそれを感じ取って、彼らに卑屈さを感じさせまいと余計に丁寧に接する、そうするとそのことがまた、彼らの屈辱感を倍加させる‥‥」。「くららはため息をついた」(傍線部(イ))。この辺のことは、どうやら彼女の修道女としての海外活動で通ってきた葛藤であるらしかった。
 
4️⃣「けれど、施す側もいろいろだけれど、施される側もいろいろ、です。施されてやってるんだ、お前たちに善行をさせてやってるんだ、とばかり、貰ってやるという態度の人もいる。…それほどでなくても、施される、ということはそのままプライドまで差し出さなければならない、ということでは全然ないのよ。なんというか、一番その人のプライドが試される、重要な瞬間なんです。もっともその前に、私は珊瑚さんが今、『施されてる』状態では全然ないと思ってるけど。もしあなたが、立花さんが家賃を十五万円に値引きしたってことに、そう感じているのなら‥‥」。珊瑚はその言葉をさえぎり、「プライドが試される、重要な瞬間っていうのは?」。くららは、そうね、と言って、何か思い出そうとし、ゆっくりと、「私が昔、ローマに赴任していたとき、貧しい人たちの住む地域に、寄付された服や食料を定期的に運んでいたことがあったの」「ああ、修道院の活動で?」「そう。そこにいた、一人暮らしのおばあさん、ジュリアーナ。私がもっていくものを、まるで薔薇の花束を受け取るように、にっこりと、優雅に、両手をこう、振り絞って‥‥」と、くららは両手を胸の前で握りしめ、目をつむって微笑みながら首を振って見せた。「まあ、ありがとう、って受け取るの、毎回、毎回。それはやりすぎたらかえって嫌味になって相手への攻撃になるような、微妙なラインなの。彼女はその辺を、完璧に心得ていた。私は、いつも、自分が極上のプレゼントを差し上げたような気持ちにさせてもらったものです。…」。珊瑚は苦笑した。「プライドの鍛え方が違うのかもしれません」「そうね。珊瑚さんはもっと鍛える必要があるのかもしれませんね」。そこで二人で少し笑った。
 
5️⃣「聖フランシスコの言葉に、施しはする方もそれを受ける方も幸いである、というのがありますが、ジュリアーナの文化的な背景にそういう認識があったのかもしれない。確かに、私には珊瑚さんと雪ちゃんの役に立てれば、という気持ちがあります。それを同情と呼ぶかどうかは別にして。珊瑚さんは、同情を引くのがいや、と言っているけれど、たとえば、あなたの好きな石原吉郎がいたシベリアの抑留地で、彼らはそんなことを言っていられたかしら。彼らの中の誰かが、ソ連側の誰かの同情を引いて銃殺を免れたとか、パンを一個余計にもらって餓死を免れたとしたら、その『同情を引く力』は、その人が生きるための武器になったのではないかしら」「‥‥生きるための武器」。くららは、うなずいた。珊瑚は「そんなものを、武器にして生きるなんて悲しい。でも、それが私の現実なんだって、だんだん、分かってきました」。そして、傷ついた後のような笑顔を見せた。くららはその笑顔を痛々しく見遣って、「その、恵さんだって、私は同情と呼ぶより、珊瑚さんに対する好意だったんだと思いますよ」「ええ。私も彼女が好きです。だから、いろいろ考えて、これは私の彼女に対する嫉妬なんだって、思ったんです。私にはないものを持っているからって、反感を持つのは、それはやっぱり、私がおかしい」「おかしくなんかないですよ。自然な感情ですよ。『でも、彼女に反感を抱くことを、そういうふうに意識できれば、しめたものですよ』(傍線部(ウ))」「しめたものですか」「そう、しめたもの」。ふふふ、と二人で笑う。
 
6️⃣ 珊瑚さんはね、なんというか、こちらが思わず応援したくなるようなところがあるんです、だからね、それを利用すればいいのよ‥‥。
別れ際、くららはそう言ったが、珊瑚は、そんなものを「利用」する気になんかなれない、と思った。なんというか、人の好意を利用するなんて、そういうことは「薄汚い」と思う。けれどそれは、まだまだ「プライドの鍛え方」が足りないということなのだろうか。そんなことにいちいち反応するのは、なまっちょろい「プライド」の証拠で、母子家庭でなりふりかまわず働かないといけない立場としては、もっとプライドを鍛え、ちょっとやそっとでは傷つかない鎧のようなものにし、当然のような顔をして人の好意を渡り歩いて行くべきなのだろうか。
自分にはそれができるかどうか、しばらく考える。
「やっぱり、葛藤なしにはできない、と思う」(傍線部(エ))。
バギーを止め、中で寝ている雪を見つめる。
綱渡りのような人生だけれど、やれるところまでこれでやってみるしかない。あんたは、そういう母親といっしょに生きるんだ。
 
 

〈設問解説〉問一 (語句の意味/文脈に即して簡潔に)

〈GV解答例〉
(1)おずおずと→相手を恐れてためらいながら
(2)呼び水→行為を起こすきっかけ
(3)ねぎらい→相手の苦労をいたわること
 
 

問二「アレルギー反応、っていう言葉はぴったりかもしれない、と珊瑚は心の中で思った」(傍線部(ア))とあるが、「アレルギー反応」とはどういうことか。本文の内容に即して35字以内で説明せよ。

 
内容説明問題(表現)。われわれのコミュニケーションは、活字によるものも含めて、明示されない文化的な共通了解(自明性)によって支えられる。比喩表現はその最たるものの一つである。東北大学でも比喩を含んだ説明問題は頻出だが(→22一・二)、予備校の解答はそろってこの端的な事実を無視し、明示された記述を拾い上げるのに「徹し」ているようだ。比喩の説明が問われたら、自明性も合わせて言語化するのが知的営為にふさわしいだろう。
 
「アレルギー反応」とは、「潜在化した(a)/拒否反応が(b)/(何かの事柄を契機として)表面化すること(c)」である。これを「本文の内容に即して」説明すると、きっかけとなったのは「恵さんの優しさ」(字数制限上、解答からは省く)。それにより、「そんなこと(→周囲の同情)に頼って生きていくような自分が嫌」という感情が、珊瑚のうちに湧いてきた。以上の内容を踏まえて「周囲の同情に頼る生き方を拒否する(b)/漠とした感情が(a)/意識の上に表出したこと(c)」と解答できる。
 
〈GV解答例〉
周囲の同情に頼る生き方を拒否する漠とした感情が意識の上に表出したこと。(35)
 
〈参考 S台解答例〉
相手の親切心に対して卑屈になり、反発のあまり過剰に反応してしまうこと。(35)
 
〈参考 K塾解答例〉
他人からの同情に素直になれない自分への過度な嫌悪が唐突に現れたこと。(34)
 
〈参考 Yゼミ解答例〉
母子家庭ゆえに受ける同情や親切に対して拒絶反応を示してしまうこと。(33)
 
〈参考 T進解答例〉
娘と二人で生きる自分の人生に対し他者が同情することへの潜在的な嫌悪感。(35)
 
 

問三「くららはため息をついた」(傍線部(イ))とあるが、それはなぜか。本文の内容に即して60字以内で説明せよ。

 
理由説明問題(心情)。直後の「この辺のことは、どうやら彼女の修道女としての海外活動で通ってきた葛藤であるらしかった」を根拠に「〜葛藤を、自らの経験で身をもって痛感していたから」(A)と導き、あとは「この辺のこと」の承ける「葛藤」の内容を直前のくららの会話から端的に述べるとよい。その根拠は「『施す側』の中の、センスのいい人々は〜彼らに卑屈さを感じさせまいと余計に丁寧に接する、そうするとそのことがまた、彼らの屈辱感を倍加させる」。これを「施される側が卑屈に感じないように接することが/その屈辱を倍加させうるという葛藤」と圧縮し、先述のAにつなげて解答とする。
 
〈GV解答例〉
施される側が卑屈に感じないように接することがその屈辱を倍加させうるという葛藤を、自らの経験で身をもって痛感していたから。(60)
 
〈参考 S台解答例〉
施される側に卑屈さを感じさせまいと丁寧に接することが、かえって相手の屈辱感を増すことにつながるという葛藤があったから。(59)
 
〈参考 K塾解答例〉
卑屈さを感じさせまいとする施す側の好意が、施される側の屈辱感をかえって大きくすると言うジレンマに陥り、落胆したから。(58)
 
〈参考 Yゼミ解答例〉
相手の屈辱感や反感を察して丁寧に接することが相手をより卑屈にしてしまうという悪循環に悩んだ苦い経験が思い出されたから。(59)
 
〈参考 T進解答例〉
施しを受ける側が自分のプライドを傷つけられながらも、それがないと生きていけない現実に、くららは葛藤を覚えていたから。(58)
 
 

問四「でも、彼女に反感を抱くことを、そういうふうに意識できれば、しめたものですよ」(傍線部(ウ))とあるが、くららはなぜ「しめたものですよ」と珊瑚に伝えたのか。本文の内容に即して45字以内で説明せよ。

 
理由説明問題(心情)。傍線部自体を「どういうことか/どういう心情か」と問うのではなく、その一部を取り出し「なぜ『しめたものですよ』と伝えたのか」とメタレベルで問う、その問い方に留意する必要がある。傍線部の発言の前の珊瑚とくららのやり取りで、「『そんなもの(→『同情を引く力』)を、武器にして生きるなんて悲しい。でも、それが私の現実なんだって、だんだん、分かってきました』。そして、傷ついた後のような笑顔を見せた。くららはその笑顔を痛々しく見遣って」とあり、さらに傍線部の発言の後、「『しめたものですか』『そう、しめたもの』。ふふふ、と二人で笑う」となっていることが根拠となる。ここから、くららは「落ち込む珊瑚を肯定するため(励ますため)」(A)に「しめたものですよ」と珊瑚に伝えたということが見えてくる。
 
では、「彼女に反感をいだくことを〜意識」することがなぜ「しめたもの」、すなわち「恵に反感をいだく珊瑚」を肯定することになるのか。これは「負の感情の対象化」という作用で、特別な理論に拠らなくとも、日常的に理解できる程度の作用である。つまり、「負の感情」に囚われているその最中では「負の感情」から逃れられないが、それを対象化できている時点で、その感情から半ば自由になっている、ということだろう。これより解答の前半を「反感を意識できる時点でそれから逃れていることを指摘することで」とし、先述のAにつないで最終解答とする。
 
 
〈GV解答例〉
反感を意識できる時点でそれから逃れていることを指摘することで、落ち込む珊瑚を肯定するため。(45)
 
〈参考 S台解答例〉
自分にないものを持つ人間への反感を利用して、他者の好意を受けいれつつ生きて欲しいから。(43)
 
〈参考 K塾解答例〉
施す者に対する反感を自然な嫉妬として肯定し、その行為を受け入れて生きていって欲しいから。(44)
 
〈参考 Yゼミ解答例〉
施す側へ抱く感情を自覚し制御する力は、珊瑚が現実を生きていく上で助けになるものだから。(43)
 
〈参考 T進解答例〉
恵さんへの反感を嫉妬として捉えられるならば、自分のプライドが傷つくことにはならないから。(44)
 
 

問五「やっぱり、葛藤なしにはできない、と思う」(傍線部(エ))には、珊瑚のどのような気持ちが表れているか。本文全体の内容を踏まえて75字以内で説明せよ。

 
心情説明問題。傍線部自体に「結局、葛藤からは逃れられない、その葛藤を引き受けて生きていこうと覚悟する気持ち(→「やれるところまでこれでやってみるしかない」)」が表れているのは自明である。ならばあとは、その判断の根拠を、葛藤の内容と合わせて、「本文全体の内容を踏まえて」説明すればよい、ということになる。
 
直接の根拠となるのは、珊瑚がくららと別れて、一人くららがかけてくれた言葉を反芻する場面(6️⃣)。「母子家庭でなりふりかまわず働かないといけない立場としては(a)〜当然のような顔をして人の好意を渡り歩いて行くべきなのだろうか(b)。自分にはそれができるかどうか、しばらく考える」、その答えが傍線部ということである。つまり「幼い娘を母親一人で育てるには周囲の助けが必要(a)→好意(施し)を甘受する境遇に身を置く(b)→それもできない(c)→aとcの間で葛藤しながら生きていくことを覚悟する」という思考の流れになる。以上より「幼い娘を母親一人で育てるには周囲の助けが必要だが(a)/施しを甘受する境遇に身を置くこと(b)/もできない以上(c/判断の根拠)/その間で葛藤しながら生きていくことを覚悟する気持ち」と解答できる。
 
〈GV解答例〉
幼い娘を母親一人で育てるには周囲の助けが必要だが、施しを甘受する境遇に身を置くこともできない以上、その間で葛藤しながら生きていくことを覚悟する気持ち。(75)
 
〈参考 S台解答例〉
子どもと二人で生きていかねばならない現実がある以上、割りきれない思いに悩みながらも、他者の好意を時には受けいれつつ生きていくしかないと決意する気持ち。(75)
 
〈参考 K塾解答例〉
相手への気遣いをもって施しを受け入れるだけのプライドを鍛えても解消されない、自分たちの現状が同情に値するものとされることに無意識に抵抗する気持ち。(73)
 
〈参考 Yゼミ解答例〉
母子二人で生きていくためには他人の同情や好意を引き出して利用するほかないという現実への理解と、それが薄汚い手段に思えてためらう本心との間で悩んでいる。(75)
 
〈参考 T進解答例〉
他者の好意を甘受して生きることは、同情に対しプライドが傷つけられたと嫌悪感を抱く自分には難しいので、自分の力で娘と生きていこうという決意が表れている。(75)