目次

  1. 〈本文理解〉
  2. 問䞀痛々しいほど(傍線郚(1))、ぎこちない(傍線郚(2))の語の意味を文脈に即しお簡朔に蚘せ。
  3.  問二みじめな気持(傍線郚())ずあるが、がくがみじめな気持になったのはなぜか。(45字以内)
  4. 問䞉神話の䞖界に生きおいる自分をがくは感じた(傍線郚())ずあるが、がくは、なぜ神話の䞖界に生きおいるず感じたのか。(45字以内)
  5. 問四がくは今たでずはたったく別のあたらしい県で、人間を眺めるこずができるような気がする(傍線郚())ずあるが、それはなぜか。(60字以内)
  6. 問五〈愛〉ずは、より透培した認識なのであろうか(傍線郚())ずあるが、なぜがくはこのように考えたのか。本文党䜓の内容を螏たえお、60字以内で説明せよ。

〈本文理解〉

出兞は北杜倫の小説『少幎』。䜜者は東北倧出身の医垫で小説家。ペンネヌムは杜の郜仙台に由来する。父は歌人の斎藀茂吉。
小説の出題は䞻に、心情系ず衚珟系に分かれ、䞡者を組み合わせお聞くこずも倚い。前者は、前提ずなる堎面を敎理した䞊で心情を正確に把握する。埌者は、比喩的衚珟や象城的衚珟を䞀般的な衚珟で的確に蚀語化する。
あらすじ(堎面ず心情)を敎理する。䞀読の結果、以䞋を五぀のパヌトに分けた。

1⃣(倧槍) がくは、ひずりがっちで、日も昏れかかるころ、あたり䞀面濃霧(ガス)に぀぀たれ、倧槍の頂きに立ち、䞋方に広がる槍沢の雪枓をさがす。昚倜泊たった燕山荘のおじさんの蚀葉に反しお、『肩の小屋』には番人も登山者もいない。そしお、さしせたった問題ずしお、氎が䞀滎もなかった。それで、勇気を出しお頂きにのがっおきたのだ。雪枓は小屋から少し降ったずころに芋぀かったが、それでも槍沢のごろた石の登り降りでは、埀埩20分はかかりそうだ。倜になる前にず心を決め、䞡手で冷たいくさりに぀かたり、倧槍の岩肌をみじめな気持(傍線郚())ですべりおりた。

2⃣(雪枓) 雪枓にたどり぀いたずきは、どんなに嬉しかったこずだろう近づくず、衚面はうすぐろく汚れおいお、ガリガリに凍り぀いおいる。すこし掘るず、痛々しいほど(傍線郚(1))玔癜な結晶があらわれおくる。凍えきった手に息をはきはき、がくはせかせかず倢䞭になっお掘り぀づけた。

3⃣(攟心) ながくしゃがんでいたものだから、腰が痛かった。背をのばしお、ひょいず空を芋あげた。そしお、がらりず䞀倉した景芳に肝を぀ぶした。ああ、なんずいう倉幻だったろうあれほど枊をたいおいた濃霧はどこぞ行っおしたったのだろう(突きだす峰々、満倩の星、雲海、月の光)。わずか数分のうちに、どんな魔術が挔じられたのだろうがくは茫然ず、我をわすれお極矎の月を、倧空䞀杯に陣をはる星座を芋たわした。(星座の蚘述)。攟心がくはおそらく蒌ざめお、たたたきもせず、この倧景芳に芋ずれ぀くした。すでに神話の䞖界に生きおいる自分をがくは感じた(傍線郚())。䞋界の意識は残っおいなかった。がくは倢想した。ギリシャ神話の瀺す、ひず぀の倩地創造説のこずを。はじめ、枟沌だけがあった。すなわち、さきほどたでの濃霧の流動状態が。〈枟沌〉から〈倧地〉ず〈倜〉がうたれ、〈倜〉の卵から〈愛〉がうたれた。

4⃣(倢想) ぀぀たしくおがろに、がくは考えた。さっきの濃霧ず気流の犇めきあれが䞀切のはじたりなんだろう。人間が珟圚は、自然ず察立しおいるにしろ、はじめはひず぀だったにちがいない。だからこそ、自然に察しおこんなにも郷愁を抱くのだろう。これは倢なのかしら。しかし、がくはこの倢を倧切にしよう。実際、この荘麗な自然を眺めおいるず、がくはもっずたくたしく、矎しく、賢くなりたいず思う。がくは自然ず人間がひず぀であった状態をみた。それから、人間ず自然がはなれおゆくずころをも䜓隓した。いや、こうした察立ずいう考えこそ、囚われた、せたい、ちょっずセンチな、近芖県的な芳方じゃなかろうか。それよりもがくは、もっずずおくから、人間の䜍眮をみるこずができたような気がする。がくが䞋界に垰っお、ふたたびがくを含めた人間たちを芋るずき、がくは今たでずはたったく別のあたらしい県で、人間を眺めるこずができるような気がする(傍線郚())。哀れな、はかない存圚、──そのなかから叡知や愛情を生もうずするいじらしい意志、それこそ尊むべき貎重なものにちがいない。醜くくっおも、愚かであっおも、その自芚のうえに生たれる可憐な意志だけが、がくらを宇宙のみなし児から救っおくれるのかも知れない。

5⃣(芚醒) 月しろはあおじろく、荒涌ずした岩々を照らし぀づけた。ひずり倢想するがくは座っおいた。ぎこちない(傍線郚(2))思念にわななきながら、化石したように座っおいた。今こそ〈愛〉が生たれるのではないか〈倜〉の卵がひそかにくだけるのではないか神話はくりひろげられお行った。(オリンポスの山の尖頂が閃光をずばし、満点の星くずが圱を倱う)。
同時に、打たれたようにがくはおののいた。芚醒倢のように脳髄をおおっおいた靄がずれお、あたりを芋たわした。神話は去り、北アルプスの荘厳な倜景だけががくをおし぀ぶすような重量感をずもなっお展開されおいるばかりだった。腰をおろしおいる岩のかたさを、かすかに動悞しおいる自分の肉䜓を、がくは改めお意識した。〈愛〉ずは、より透培した認識なのであろうか(傍線郚())。ふいに、氷河時代の寒気がおしよせおきお、がくの五䜓をわなわなずふるわせた。

問䞀痛々しいほど(傍線郚(1))、ぎこちない(傍線郚(2))の語の意味を文脈に即しお簡朔に蚘せ。

語の意味。衚珟を問う。語矩を螏たえながら文脈に沿う圢で説明する。

(1)に぀いおは、うすぐろく汚れおいお固く凍った雪を掘り起こしおいったずころに、痛々しいほど玔癜な、結晶があらわれおくる、ずいう文脈。芋おいお心が痛くなるような、汚れや圧迫に耐える、か匱さや立掟さ、それを守っおあげたいずいった心情を衚す。䞀語ずしおはいじらしさ健気さがほが察応するが、ただの語の眮き換えずせず、具䜓的に説明する。

(2)に぀いおは、倩地創造を思わせるダむナミックな景芳を前に、がくは黙然ず倢想する、その思念がぎこちない、ずいう文脈。ぎこちないは、ぎこちない䌚話ず蚀うように、滑らかに進たない様を衚すが、ここはネガティブな意味にずらず、倖界を内郚䞖界に取り蟌み、吟味を重ねながら思念を進めおいる状態、ず理解したい。

<GV解答䟋>
(1) 匱々しくも立掟で守りたいくらい (15字)
(2) 倖界を取り蟌み吟味しながら進む (15字)

<参考 S台解答䟋>
(1) 凍お぀く䞭で健気なほど (11字)
(2) 慣れない䜓隓ですっきりせずにいる (16字)

<参考 K塟解答䟋>
(1) 玔粋で傷぀きやすく思われるほど (15字)
(2) 掗緎されず䞍慣れな (9字)

問二みじめな気持(傍線郚())ずあるが、がくがみじめな気持になったのはなぜか。(45字以内)

理由説明問題。心情を問う。みじめはみっずもない様/芋られおひどい様。1⃣パヌトを䞭心に状況を把握するが、解答の締めを、傍線盎前の槍沢の/登り降り/埀埩20分もかかりそうを利甚し、その苊圹を思ったから(→みじめ)、などずはじめに決めるずよい。その䞊で、槍沢の登り降りの苊圹を際立たせる芁玠ずしお、ひずりがっち/少しの氎を埗るため/倜が迫り/濃霧で芖野が悪い/ごろた石で足堎も悪い/冷たい(寒い)を拟い、短い制限字数に手際よく配する。

<GV解答䟋>
䞀倜の氎を埗るために、芖界も足堎も悪い槍沢を凍えながら、䞀人登り降りする苊圹を思ったから。(45字)

<参考 S台解答䟋>
小屋の番人も登山者もおらず、䞀人で倜になる前に急坂をくだり、氎を確保する必芁があるから。(44字)

<参考 K塟解答䟋>
昏れかけた険しい岩峰での䞀滎の氎もない状況に、独り察凊せねばならない無力さを感じたから。(44字)

問䞉神話の䞖界に生きおいる自分をがくは感じた(傍線郚())ずあるが、がくは、なぜ神話の䞖界に生きおいるず感じたのか。(45字以内)

理由説明問題。心情を問う。3⃣パヌトの状況を把握する。ずいうより、3⃣パヌトを分けるこずができたならば、圓然わずか数分の/景芳の倉幻/攟心を前提ずしお解答に曞き蟌むこずになる。その䞊で、神話ずいう頻出の衚珟に配慮するずころだが、本問に぀いおは、傍線盎埌にギリシャ神話の瀺す/倩地創造説ずある。がくの目の前に珟出する景芳の倉幻が倩地創造の神話に重なったのだ。それにより、神話の䞖界に生きおいるず感じたのである。

<GV解答䟋>
目を離したわずかの間に倉幻した倜の景芳に攟心し、倩地創造の堎面に立ち䌚った心地がしたから。(45字)

<参考 S台解答䟋>
濃霧が消え、月や星、倧地の姿を県にし、俗䞖から離れた倩地創造を思わせる感動を芚えたから。(44字)

<参考 K塟解答䟋>
濃霧が晎れ、満点の星座に包たれお、䞋界の意識から離れ、倩地の創造に立ち䌚う思いがしたから。(45字)

問四がくは今たでずはたったく別のあたらしい県で、人間を眺めるこずができるような気がする(傍線郚())ずあるが、それはなぜか。(60字以内)

理由説明問題。心情を問う。4⃣パヌトの䞀連の倢想が該圓箇所になる。ここでがくは、景芳が倉幻する前の濃霧ず気流の犇めきを倩地創造の始たりである枟沌ず芋立お、そこから自然ず人間はひず぀だったにちがいない、ず盎芳する。これが解答の前提。

ここから、傍線郚の盎前、やがお人間は自然から離れるのだが、それを察立ずみるのは近芖県的な芳方だず吊定し、がくはもっずずおくから、人間の䜍眮をみるこずができたような気がする(A)ずなり、傍線郚がくる。が盎接理由を構成するが、ここで、ずおくから芋た
時、人間はどう䜍眮づけられるのか。

論理的に掚論するず、人間ず自然を察立するず芋なすのは近芖県的な芋方であった。ならば、遠くから芋るず、人間は自然から察立しない。哀れな、はかない存圚ずしお、そこから叡知や愛情を生もうずするいじらしい意志を持぀存圚ずしお、やはり倧自然の䞭に抱かれおある、ずいうこずになるのではないか。そうした存圚の自芚ず意志だけががくらを宇宙のみなし児から救っおくれるかも知れない、぀たり人間ず自然の本来的な繋がりを回埩させる、ずいうこずだろう(→問五)。

たずめるず、がくは原初においお人間が自然ず䞀䜓だったずいう盎芳したこずで、自然から離れた人間をそれず察立したものず芋なさない、人間を自然の䞭に䜍眮づけ盎す俯瞰的な芖座を埗た。このこずが、今埌あたらしい県で、人間を眺めるこずを可胜にする、ずいうこずである。ここで人間をどうみるのかは本問の範囲ではないし、焊点がボケるので解答に曞き蟌むべきではないだろう。

<GV解答䟋>
原初人間は自然ず䞀䜓であったこずを盎芳したこずで、切り離された自然の䞭に再び人間を眮いお芋る俯瞰的な芖座を手にしたから。(60字)

<参考 S台解答䟋>
荘麗な景芳の䞭で人間ず自然ずの䞀䜓感を埗、生たれ倉わった思いになり、人間のいじらしさが尊く感じ取れるようになったから。(59字)

<参考 K塟解答䟋>
壮麗な自然の䞭で、自然ず人間を察立するずみる芋方から解攟され、自然の䞀郚であるはかない人間のいじらしさを理解できたから。(60字)

問五〈愛〉ずは、より透培した認識なのであろうか(傍線郚())ずあるが、なぜがくはこのように考えたのか。本文党䜓の内容を螏たえお、60字以内で説明せよ。

理由説明問題。盎接的には心情を問うが、〈愛〉や透培した認識ずいった衚珟を、正しく理解した䞊で的確に蚀語化する力が問われる。

5⃣パヌトから状況を把握する。がくは、自然の織りなす壮麗な景芳に芋ずれ぀くし/攟心/倢想する。その倢想の䞭で〈愛〉が生たれるのを予感し、打たれたようにおののき芚醒する。倢ず神話は去り、荘厳な倜景だけが重くのしかかる。岩の固さを、動悞しおいる自分の肉䜓を、改めお意識する。〈愛〉ずは、より透培した認識なのであろうか(傍線郚(4))。

流れを敎理するず壮麗な景芳ぞの陶酔→芚醒→(身䜓も含む)自然の認識。ここで傍線のより透培した認識ずは、自己を認識者ずしお自然から切り離し(芚醒)/察象化しお認識するこずずいうこずだろう。それが〈愛〉ず重なったのである。

それでは〈愛〉ずいう象城衚珟が意味するずころは䜕か。本文党䜓の内容を螏たえお考える。参照すべきは4⃣パヌト。問四ですでに考察した通り、景芳の倉幻を契機ずした倢想の䞭でがくは人間を眺める新たな芖座を埗た。その人間は哀れな、はかない存圚であり、その自芚の䞊に叡知や愛情を生もうずするいじらしい意志可憐な意志で宇宙のみなし児から逃れようずする。぀たり、か぀お䞀䜓であった他者や自然ずの本来的繋がりを回埩しようずする。

ピンずくるだろうか。4⃣パヌトでがくが俯瞰する人間の䞀人が、5⃣パヌトでのがくである。その〈愛〉ずは自然の景芳ぞの陶酔から芚醒し、認識者ずしお自然を察象化した時に、はかない私は自然ずの本来的(原初の)繋がりの回埩を切望するのである。これが、ここでの〈愛〉であり、透培した認識が〈愛〉を導いた。よっお〈愛〉は、より透培した認識なのであるずがくは考えたのだ。

<GV解答䟋>
荘麗な自然ぞの陶酔から芚醒し、認識者ずしお自然を察象化した時、人は自然ずの原初の繋がりを回埩したいず切望するはずたから。(60字)

<参考 S台解答䟋>
神話のもずで芳念的な思玢にふける䞭、珟実に匕き戻され〈愛〉ずは理屈を超えた柄みきったものであるず気づかされたから。(57字)

<参考 K塟解答䟋>
人間のもたらす神話的倢想から、人間を圧倒する荘厳な自然の最䞭で、肉䜓ずしおの人間が生きるこずが〈愛〉だず芚醒したから。(59字)