はじめに

2025年からの新課程に合わせて「地歴・公民分野」の科目の変更が行われる。公民分野については

 

「公共、倫理」
「公共、政治・経済」

 

に分かれるが、概ね「公共」が「現代社会」に相応するものと考えて、従来の過程と重ねると

 

「公共、倫理」≒「現代社会」+「倫理」
「公共、政治・経済」≒「現代社会」+「政治・経済」

 

となるだろう。ただし、これはあくまで目安であって、例えば従来の「現代社会」では「政治・経済」との被りが多いので、「公共」では「倫理分野」「政治・経済分野」「現代社会分野」でバランスのとれた出題になるであろう。いずれにしろ、今回の共通テストの「倫理・政経」においても共通テスト以降の「思考させる」問題の傾向が色濃く出ているので、その探究が新課程以降の指針となるのは間違いない。

 

〈大問別講評〉

第1問(倫理「源流思想」12点)
問1「プラトン→教父哲学」「アリストテレス→スコラ哲学」という関係を押さえる。一方、イスラームにギリシア哲学が影響を与えたのは間違いないが、それと「シーア派とスンナ派の分離」は関係ない。問2「アウグスティヌス」にとって「地の国」は「神の国」にとって代わられるものである。前者は「隣人愛」に規定されるものではない。問3「仏教」とそれが批判した「バラモン教」との意外な共通性について、資料とそれを受けた対話に基づき答える問題。「アートマン」と「ブラフマン」を正確に分ける必要がある。問4「イエス」の「ユダヤ教」批判の本質について。単なる律法批判ではないことに注意したい。

 

第2問(倫理「日本思想」12点)
問1「日本の神々と災害」についての基本問題。問2「古代日本の仏教」について。「源信」の記述が難しいが「念仏を唱えることのみが…往生できる方法」が誤り。源信は「観想念仏」を重視した。その後易行としての「称名念仏」を説くのは法然である。問3「古学派」は孔孟への回帰であり「朱子学…に依拠して」が明らかな誤り。問4は資料の読み取り。ジブリの映画化で話題となった『君たちはどう生きるか』の吉野源三郎の著作から。実質国語力の問題。

 

第3問(倫理「西洋思想」12点)
問1「宗教改革の影響」について、正しいものをすべて選ぶという消去法が通用しない方式。職業召命観による「職業人」は「自分の能力を全面的に発揮する」存在ではない。ルネサンスの「万能人」との混同を誘っている。問2は大定番のカントについての問題だが、「共通感覚」という馴染みのない用語について、資料を正確に読み取らせる問題。③の選択肢は「他者が行った判断と照合すべき」が誤り。資料では「他者が行う可能性のある判断と照合し」とある。問3も定番のルソーについて、資料を読ませ後の対話の空欄を埋めさせる問題。空欄a〜cのうち、aについては読み取り、bcについてはルソーの自然状態、不平等の起源についての知識問題。問4はそれまでの対話をまとめた「ノート」を読み取り、空欄に入る適切な文を選ぶ問題。国語力。

 

第4問(倫理「現代の諸課題と青年期」14点)
問1知識問題としては本問と次問が最難関。アは「(6つの)発達課題」でハヴィガースト、これは基本。イについては「(自己中心性→)脱中心化」でピアジェとなる。クーリーについては「鏡に映る自我」(他者との共存で自我は育まれる)。問2(1)「ハイデガーの思想」について。図式的に把握すると「死への存在」であるという自覚に基づく自己の本来的なあり方から離れたところに「ダス・マン」「存在忘却」「故郷の喪失」がある。②はサルトル。問2(2)資料読み取り。国語力。問3も資料読み取り。「世界と切り離さず自己を捉えようとした結果、後悔がある。しかし世界を手放さず自分の問題として捉えたい」という内容。②は「苦しみをバネしにして」が読み間違え。

 

第5問(政治・経済「政治・経済総合」19点)
問1資料読み取り。マックス・ウェーバーの有名な「権力論」。容易。問2「雇用保険」の「財源」の負担者と「労災保険」の「保険料」の負担者。その論理的な説明と正確な知識が問われる。問3「信教の自由や政教分離」について正しいものをすべて選ぶという消去法が通用しない方式。正確な知識があれば難しくはない。問4は見慣れない法制度の背景について説明したメモから正解を導く問題。国語力。問5「有限責任」「合同会社」についての知識問題と文脈に沿って正しい文を挿入する問題の組み合わせ。問6「臓器移植法改正」の変更点についてまとめたメモから読み取れる内容を選ぶ問題。正しいものをすべて選ぶ方式。国語力。

 

第6問(政治・経済「経済成長とグローバル化」19点)
問1GDPの計算過程を表にまとめる問題。問2「国民所得」の求め方、「三面等価」についての基本的な知識。問3「市場の失敗」の事例に当てはまるものをすべて選ぶ問題。問4「濃度規制」と「総量規制」の考え方を踏まえ、具体的な事例で汚染物質を減らすのに適切な条件を選ぶ問題。簡単な計算が必要。問5「比較優位」の概念理解を前提として、それに当てはまるような数値を代入する問題。問6、競合する製品(安価な冷凍野菜)の輸入が国内の製品市場(生鮮野菜)にどのような影響を与えるか、それを表すDS曲線を選ぶ問題。まず輸入が解禁されると、確実に価格が下がるので①②にしぼる。その上で、輸入しても需要が半分に落ち込むとは限らないので(価格が下がれば需要は増えていくと予想される)、①は不適切。正確な理解に基づいた思考力が試される。

 

第7問(政治・経済「国際社会の諸課題」12点)
問1『統治二論』『戦争と平和の法』『リヴァイアサン』の著者とその一節の組み合わせを選ぶ問題。ロックの『統治二論』とホッブズの『リヴァイアサン』では自然状態の捉え方の違いに着目。グロティウスの『戦争と平和の法』は「国際法」への言及がポイント。問2「インド、インドネシア、中国の人口ピラミッド」の今後の推移について、予測を立てる問題。容易。問3「一帯一路構想」や「アジアインフラ投資銀行」の細かい知識が分からなくても、国際収支の項目分類(本問では第二所得収支)ができれば正答が選べる。問4「宇宙条約」の条文が資料として示され、それに違反する事例をすべて選ぶ問題。容易。