【出典・資料の傾向】

本文は1948年発表の梅崎春生「飢えの季節」。 小説の場合、読み手と小説に描かれた世界に隔たりがある(主人公との年齢差や、時代的・言語的に古い等)と、話に集中できなくなるという話(苦手意識や拒否感のようなもの)をよく聞きます。
今回のお話も、「第二次世界大戦後」「食料難の東京」「空腹な私」という設定・主人公でしたので、なかなか話がはいってこない(流れに乗りきれない)と感じやすい小説といえます。(2021年 原民喜「翳(かげ)」ほどではないにしても)。 しかし、読み手(受験生)と小説の世界が隔たっている傾向は、2021年の共通テストから続いており、今後も要注意です。
また、広告の【資料】と、その資料と本文を踏まえた【構想メモ】、さらにその構想メモからの考察をまとめた【文章】まで示されたことでの読解の分量的・時間的・精神的な負担が大きくなりました。 今回の資料の広告は、実用的な文章の資料とはいえないものの、2025年からの共通テストへの足がかり的なものも感じられ、来年度の対策には工夫が必要だと思われます。
 

【設問分析】【今回の特徴的な設問】

語句の意味の問題は、去年に続き単独の設問としては問われませんでしたが、直接的に問われていないだけで、小説分野である問1〜問6の「心情言動の説明」「理由説明」、問7の「考察問題」はもちろん、「選択肢の読解(吟味・検討)」をする上でも、語句の意味や文意をきちんと押さえる力は問われています。
 
問1〜問6の小説分野は「一人の人間の心情の変化(一人の人間の相反する二つの心情ともいえるもの)」を、その対象を含めて丁寧に読み取ることが求められると同時に、選択肢の説明(語句)をしっかり吟味することが重要でした。
 
今回の特徴的な設問としては、やはり問7です。 【資料】【構想メモ】【文章】をどう扱うかを設問の意図の理解=設問文の読解から決定することが重要でした。 設問文から【文章】=「Wさんの主張」の論拠(事例・引用)が【資料】【構成メモ】と捉え、【文章】の読解をメインにして、必要に応じて【資料】【構成メモ】+【本文】に戻り内容を確認する方が、限られた時間内での読解+情報処理には現実的だったと考えます。
 

【共通テスト小説、新傾向に対応できる力をつけるには】

小説が評論に比べて難しい(厄介)なのは、解説を読んで「あー、そうなんだ!」、解説を聞いて「なるほど!!」とは思うものの、自分では「そうは読めてない、読んでない」ことが最大の理由です。
「そうは読めてない、読んでない」から答や解説に納得がいかないことが、評論よりも起こりやすくなります。 そういう皆さんのために、小説の授業では、まず、「そう読める」を目標に、設問の解説だけではなく「読み合わせ」を行い、「皆さんの読み」と「試験としての読み」のすり合わせを行っています。 皆さんと一緒に行う、この「すり合わせ」が、小説の読みを確実に変えていくのです。
 
また、下記の内容が、「試験としての小説の読み」を支える重要事項です。 授業では、絶えずチェックしています。 自分でも普段から意識して、実行すると、さらに小説の読解が変わります。
 
(1)試験としての読解を支える「語句の辞書的・慣用的意味や用法」「口語文法」を確認して、書いてある内容を主観を入れずに読む訓練をしましょう。
 
(2)(1)を踏まえた、文中での語意・文意の読み取り方を知って、その訓練をしましょう。
 
(3)小説の「仕掛け」である、様々な心情表現とその読み取り方について知り、できるように(できるようになっても)訓練を続けましょう。
 
受験生としての新傾向の問題に対する大きな不安は、想像に難くありません。 不安の中で大事なことは、さまざまなジャンルの文章に対して、その構造を理解し、論理的な読みと解きを確立することだと思います。
 
その上で新しい傾向について、その対応を一緒に工夫しながら探ることが必要です。 その確立と工夫のために、授業や個別での学びがあります。