〈本文理解〉

出典は加藤周一『加藤周一セレクション1 科学の方法と文学の擁護』
 

問1「学際的な方法」(傍線部A)とあるが、どのような方法か、説明しなさい。(三行)

 
〈GV解答例〉
複雑な現象をそれがもつ各性質に即して階級に分け、その階級に応じた科学的部門で専門的に追究した知識を総合することで、現象の全体像に接近しようとする方法。(75)
 
〈参考 S台解答例〉
一つの複雑な現象を理解するために、その現象がもつそれぞれの性質に対応して、その性質によって定義される現象のクラースを扱う科学の部門を、領域を超えて、その数だけ附け足していくという方法。(92)
 
〈参考 K塾解答例〉
複雑な現象の全体をつかむために、自分の分野に関する正確な知識を提供するそれぞれの科学の分野が協力し合うという方法。(57)
 

問2「あきらめられない場合がある」(傍線部B)とあるが、それはなぜなのか、説明しなさい。(三行)

 
〈GV解答例〉
個々の日常生活は絶えず複雑な現象との対決であり、現象全体が把握できなくとも、その全体に対して態度決定をしていかなければ自らの望む生き方が叶わないから。(75)
 
〈参考 S台解答例〉
現象の全体は厳密な科学的知識としてつかまえることは極めて困難であっても、日常生活において直面する複雑な現象に対して、わからないなりに自己の態度を決定しなければならないから。(86)
 
〈参考 K塾解答例〉
絶えず複雑な現象との対決が人間の日常生活そのものであり、それぞれの科学の分野の糾合による解決が困難だとしても、その日常生活自体は避けられないから。(73)
 

問3「私の態度を科学、つまり厳密な知識のみ基づいて決めることは、不可能」(傍線部C)とあるが、科学的な知識にはどのような限界があるか、説明しなさい。(三行)

 
〈GV解答例〉
科学的な知識は複雑な現象の部分の性質を厳密に説明するだけで、その性質は無限にあるため性質ごとの知識を合わせても現象全体の厳密さには及ばないという限界。(75)
 
〈参考 S台解答例〉
日常生活において個人的な態度決定をしなければならないにもかかわらず、限定された領域で専門化された知識と同じ程度の正確さで、複雑な現象の全体を一挙にとらえることはできないという限界。(90)
 
〈参考 K塾解答例〉
複雑性を有する日常生活上の問題の一側面について正しい答えは出せたとしても、当該の問題自体に適切に対処する態度の根拠を出すことができないという限界。(73)
 

問4「人間というものはだいたいそういうもの」(傍線部D)とあるが、「ヴェトナム戦争」と「彼女」の例を通じて、人間とはどのようなものだと考えられているか、説明しなさい。(三行)

 
〈GV解答例〉
人間はえてして、自らをとりまく社会や他人について全ての側面を把握しないまま、不安定な感情的傾向に支配されて態度や行動を決定するものだと考えられている。(75)
 
〈参考 S台解答例〉
「彼女」や「ヴェトナム戦争」の全部を知らないままに愛したり憎んだりするように、現象を理解するための考えが足りないまま、持続的ではない感情的反応からその都度の態度を決めているもの。(89)
 
〈参考 K塾解答例〉
彼女やヴェトナム戦争について全部を知りえないのに、彼女を愛したり戦争に組んだりするように、人間は自分の感情的反応によって態度を決めるものである。(72)
 

問5「たとえば戦争についての、あるいは社会についての、全体的な「イメージ」をつくって、それに対して態度を決定する。そういう方法しかない」(傍線部E)とあるが、こうした「方法」が求められるのは、どのような事態を避けるためか、説明しなさい。(四行)

〈GV解答例〉
信念はあっても専門知識を欠く者が、狂信的に行動し世間に迷惑をかける事態や、特定の専門知識はあっても信念に基づく知識の統合を欠く者が、専門領域外では行動せず、専門知識の全体がもつ意味を考えもしない事態。(100)
 
〈参考 S台解答例〉
信念だけで知識がないために、陳腐なものを頑なにに信仰して周囲に迷惑をかけるという狂信家になる事態と、知識だけで信念がないために、専門領域外の対象について何も行動せず、専門知識の全体がその人や社会にもつ意味を考えようとしないという専門馬鹿になる事態。(124)
 
〈参考 K塾解答例〉
社会的な問題に対して、自分の感情的反応だけを頼りにして行動すれば周囲の人に迷惑をかけ、一方で、一面的な専門知識だけを獲得しても有益な行動をしないという事態。(78)
 
 

問6「「信じる」という行為」(傍線部F)とあるが、この行為を実現するためには何が必要か、説明しなさい。(四行)

 
〈GV解答例〉
内的で特殊な感情を知りうるかぎりの事実を媒介としながら普遍的な価値になるまで客観化し、その価値を指導原理とした上で、並列的な個別的事実に関しての知識を統一された全体に向かって組織して作られる信条体系。(100)
 
〈参考 S台解答例〉
社会的な環境において、全く内的で特殊な個人的な感情を、知ることができるかぎりでの事実についての専門の知識を媒介としながら普遍的な価値になるまで客観化し、その価値を中心にして、統一された全体に向かって組織して作られる信条体系。(112)
 
〈参考 K塾解答例〉
日常生活における全体的な現象に対する自分の個別的な諸感情を、それぞれ現象に関する専門的な知識を媒介にしながら、一つの普遍的な価値になるまで客観化し、統一された全体に向かって組織すること。(93)