要約問題は、形式に則った客観的な読み取りと、そこから得られる内容と本文の構造に即した表現力を問うものです。その点で、現代文における学力がストレートに試されているといえます。よって、一橋大学の受験生でなくとも、100字~200字程度の要約をして的確な添削指導を受けることは、学力養成の良い機会となるでしょう。

要約作成の基本的手順は、以下の通りです。
(1)本文の表現に着目して重要箇所を抽出する(ミクロ読み)。
(2)本文をいくつかの意味ブロックに分けて、その論理構成を考察する(マクロ読み)。
(3)本文の論理構成に基づき、要約文の論理構成の骨格を決める(例えば、本文が2つのパートに分かれていれば、要約文も原則2文で構成するとよい)。
(4)骨格からもれた付加要素を、構文を崩さない程度に盛り込んで仕上げとする。

出典は内田芳明『風景の現象学~ヨーロッパの旅から』。条件なしで200字以内の要約が求められている。
(1)①段落。旅において大切なことは、対象について知的・分析的に考えることではなく、対象をまず全体として見て感じること、そしてその出会いの新鮮な印象を体験することである(a)。
②~⑤段落。だが、このように言っただけでは十分でない(b)。人が旅において都市や建物や樹木や原野に出会うとすれば、それらの事物は、すでに一つの諸関連と構造をもった生きた全体たしての風景である(c)。この風景こそは、歴史的・文化的人間の生と自然的・風土的生との一つの綜合として現象するものなのである(d)。(②段落)

自然物や人為的建造物などが、一つの内的・生命的構造関連をもつ生きた全体としてなるところに、風景が現象する(e)。(③段落)
風景は情をもっている(f)。風景とは、生情をもっているところの一つの生きた現象なのである(g)。(④⑤段落)
⑥⑦段落。しかし、さらにいま一つ本質的に重要なことが、そこから生じてくる(h)。風景が生情をもって現象するということは、風景が「世界内存在」(メルロ=ポンティ)の出来事になる、ということである(i)。(具体例)。(⑥段落)

一方では、風景は個々の出来事の一つの生きた綜合として現れるが、その語りかけてくるものを受けとる人間があってこそ、風景は成立する(j)。他方において人間は、その風景のなかに願望や希望や理想や喜びや悲しみの面影を発見し、共感している(k)。すなわち、風景が人間に語りかけてくる面(j)と、人間が風景に語りかける面(k)と、この二つの生の流れの交流のなかで、一つの風景が成立するのである(l)。(⑦段落)

(2)「展開」を導く2文((b)(h))に着目できれば、本文の論理構成を見抜くことは比較的容易である。記号化して示す。
A(人間→風景)→(bより)B(風景→人間)→(hより)C(風景→人間/人間→風景)

(3)上の本文整理に基づき、3文構成で各文の内容をまとめる。
A「旅において大切なことは、対象について知的・分析的に考えることではなく、まずその対象を全体として見、その出会いの新鮮な印象を体験することである(a)」。
B「(その時)風景は/(d)(e)(f)(g)として/現象する(c)」。
C「(その現象を通して)語られるものを人間が受けとり(j)/他方その風景に人間が自らの心の面影を重ね共感することで(k)/二つの生の流れが交流し一つの風景が成立する(l)」。

(4)後は(i)の「世界内存在」をどう使うかである。ここでの「世界内存在」はメルロ=ポンティの用法のもの(※元はハイデガーの用語)なので、無理はしたくない。しかし、ここは「本質的に重要(h)」とされている内容で、かつ結論につながる部分なので、文脈上の意味を正しくたどり解答に反映させたい。
構成(形式)から考える。(i)の後にその具体例が挟まり、段落を変えて「一方(j)/他方(k)」とした上で「すなわち」以下で両者を合流させ「二つの生の流れが交流し一つの風景が成立する(l)」と締める。こうたどると、「世界内存在」というキーワードを、直後の具体例とその両面の(j)と(k)で説明し、最後に(l)でまとめた、と見ることができる。これより「世界内存在」(i)は(l)と対応すると見て、要約においてはCの結びの箇所に反映させた。
(深意をとると、空間的・時間的に構築されてきた「その」風景に、いま人が立ち会う一回性の中で、新たな風景が生成され現象する、というのが「風景が「世界内存在」の出来事になる(i)」の意味するところだろう)。

<GV解答例>
旅において大切なことは、都市や自然といった対象を知的・分析的に考えることではなく、まずその対象を全体として見、その出会いの新鮮な印象を体験することである。その時、風景は、歴史的・文化的人間の生と自然的・風土的生とが内的生命関連をもった生情として現象する。そこで語られるものを人間が受けとり、またそこに人間が自らの心の面影を重ね共感することで、一つの風景が「世界内存在」の出来事として成立するのである。(200字)

<参考 S台解答例>
旅において大切なのは、一つの生きた全体としての風景のなかで個々の事物を見て感じとり、その出会いを新鮮に体験することである。ここで、風景は歴史的文化的な人間の営みと自然や風土のあり方とが統合された内的生命連関として情をもって存在しており、また、それを見る人間も個々の生きた出来事の綜合として風景を受けとめ、その情を発見し共感している。風景とはこうした二つの生の流れの交流のなかで成立するものなのである。(200字)

<参考 T進解答例>
旅の体験で大切なのは、対象を全体として見て、対象に新鮮に出会うことである。都市や建物などは、人間の生と自然的生が結合し、全体として一つの生命的構造関連をもつ風景の中で出会われる。ゆえに風景は単なる自然の断片の集合体ではなく、それを発見する人間と出会うことで生情をもって現象する。それ自身長い歴史をもつ自然的・風土的世界と、それに無意識に共感を覚える人間との相互の生の交流の中で、一つの風景は成立する。(200字)

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