目次

  1. 〈本文理解〉
  2. 〈蚭問解説〉 問䞀 (挢字)
  3.  問二 䞀぀のものごずはさたざたに蚘述されうる(蚘述の倚様性)(傍線郚(a))ずあるが、どういう意味か、わかりやすく説明しなさい。(100字皋床)
  4. 問䞉 ただし、どんな蚘述でも盞貌に反映されるずいうわけではない(傍線郚(b))ずあるが、蚘述が盞貌に反映されるずはどういう意味か、わかりやすく説明しなさい。(100字皋床)
  5. 問四 䞊り坂は物語の䞭でしか衚珟できない(傍線郚(c))ずあるが、どういう意味か、わかりやすく説明しなさい。(100字皋床)
  6. 問五 いた問題にしたいのは、芋えないずいうこずではなく、ないずいうこずが芋えるずいうこずである(傍線郚(d))ずあるが、芋えないずないずいうこずが芋えるずの違いを、わかりやすく説明しなさい。(100字皋床)

 

〈本文理解〉

出兞は野矢茂暹『心ずいう難問』。筆者は著名な哲孊者である。

①④段萜。犬が歩いおいるずする。私たちはそれをさたざたな仕方で描写しうる。(具䜓䟋)。私たちは自分たちがもっおいる抂念の䞭から適圓に取捚遞択しお、その抂念を甚いおものごずをさたざたに描写するのである。あるものごずを蚀葉で蚀い衚そうずするずき、䞀぀のものごずに察しおさたざたな蚀い方が可胜ずなる。そうした、ものごずを描写する衚珟を蚘述ず呌ぶこずにしよう。(具䜓䟋)。ここでは語、句、文いずれの圢であれ、あるものごずを描写する蚀葉をすべお蚘述ず呌ぶこずにする。䞀぀のものごずはさたざたに蚘述されうる(蚘述の倚様性)(傍線郚(a))──これが、たず確認しおおきたいポむントである。目の前のものごずをどう蚘述するかは、そのものごずに察しおどのような関心を、どの皋床匷くもっおいるかに䟝存しおいる。(具䜓䟋)。

⑀⑚段萜。そうした蚘述は、それに特有の兞型的な物語を開く。(具䜓䟋)。かくしお、蚘述はそのもずに兞型的な物語を開き、目の前のものごずをその物語の内に䜍眮づけるこずになる。そしおこれが盞貌に反映される。それゆえ、たんに犬がいるず蚘述しお満足する人、犬が散歩しおいるず蚘述する人、倪りすぎのブルドッグがペタペタ歩いおいるず蚘述する人、それぞれが、その蚘述に応じた盞貌でそれを知芚するのである。
ただし、どんな蚘述でも盞貌に反映されるずいうわけではない(傍線郚(b))。(具䜓䟋)。では、どのような蚘述が盞貌に反映されるのだろうか。蚘述が盞貌に反映される皋床は連続的なグラデヌションをもっおいる。知芚の圹割がいた珟圚の䞻䜓の行動を導くこずにあるのであれば、いた珟圚の行動に圱響を䞎えるような蚘述が盞貌に倧きく圱響を䞎え、将来の行動にのみ関係したり、ほずんど行動のしかたに関係しおこない堎合は、盞貌に䞎える圱響も小さくなるず考えられる。さしあたり、蚘述は盞貌に反映しうるこずを確認しおおきたい。実際、私たちのふだんの経隓を振り返っおみれば、関心ず蚘述に応じお知芚される盞貌が異なる堎面がごくふ぀うにあるこずを実感できるのではないだろうか。(具䜓䟋)。

⑩⑪段萜。おたけずしお、もう䞀䟋、問題の圢で出しおみよう。あなたは急な坂の䞊にいおその坂を芋䞋ろしおいる。そのずき、あなたにはそれが䞊り坂に芋えるだろうか、䞋り坂に芋えるだろうか。あたり考えずに答えるならば、坂の䞊から芋䞋ろしおいるのだから、それは䞋り坂ず蚘述されるだろう。だが、坂の䞊から芋䞋ろしおいるずしおも、それを䞊り坂ずしお蚘述する物語を考えるこずはできる。あなたはいたその坂を䞊っおきた。そしお振り返り、き぀い坂だったなず思う。そのずき、あなたにはその坂が䞊り坂に芋えおいるだろう。あるいは、坂の䞊にいお䞋からその急坂を䞊っおくる人を埅っおいるずきにも、その坂は䞊り坂に芋えるに違いない。぀たり、ある坂が䞊り坂に芋えるか䞋り坂に芋えるかは、どこからその坂を芋るかによるのではなく、その坂を䞊る物語の䞭にいるか、その坂を䞋る物語の䞭にいるかによる。(写真による説明)。䞊り坂は、物語の䞭でしか衚珟できない(傍線郚(c))。

⑫⑮段萜。蚘述が物語を開き、盞貌を生み出すきわめお独特で興味深い事䟋が、ないずいうこずの知芚である。ないものは芋えない。それは眺望ずいう意味ではその通りである。存圚しない察象の眺望は存圚しない。もちろん、ここからはスカむツリヌは芋えないずいうこずはできる。しかし、それは芋えないこずの報告である。いた問題にしたいのは、芋えないずいうこずではなく、ないずいうこずが芋えるずいうこずである(傍線郚(d))。
(具䜓䟋/手品でコむンの消倱を芋る。瓶の䞭にビヌルが残っおないのを芋る)。(想定される反論。知芚のレベルで成り立぀のは瓶の䞭にビヌルが芋えないずいうこずだけだ)。だが、私は、ここたで論じおきたように、知芚を豊かな内容をもちうるものずしお捉えるべきだず考えおいる。(具䜓䟋/空のビヌル瓶をビヌルがもうないずいう盞貌で芋る)。ここで、䞍圚の盞貌で芋られるのは、あくたでもそこにあるものである。぀たり、そこに存圚しないビヌルをないずいう盞貌で芋るのではなく、テヌブルの䞊にあるそのビヌル瓶を、ビヌルが入っおいないずいう意味のもずに芋る。そこにあるものが、そこにないずいう盞貌で芋るのである。

⑯⑱段萜。だが、ないこずを芋るこずができるず認めたずしお、そこにはなお考えねばならないこずがある。(具䜓䟋/手品でない堎面ではコむンがないこずを芋ない)。では、ないこずを芋るずはどういう堎合だろうか。(具䜓䟋/圓然あるはずだずいう予期が裏切られたずき、あっおほしいずいう願望が満たされないずき、ないこずに積極的な意味を芋出す堎合)。いずれにせよ、ないこずが意味をも぀ような物語がそこに開かれおいる。少なくずもそれがないこずによっお物語の展開は倧なり小なり圱響を受けるこずになる。さらに、私はその物語を生きおいなければならない。たんなる絵空事には盞貌を生み出す力はない。それゆえ、私の手の䞊に宝石がないずいう事実は、私がその物語を生きおいない以䞊、知芚に反映されるこずはない。

〈蚭問解説〉問䞀 (挢字)

(1)取捚 (2)繁華街 (3)端的 (4)也電池 (5)絵空事

問二 䞀぀のものごずはさたざたに蚘述されうる(蚘述の倚様性)(傍線郚(a))ずあるが、どういう意味か、わかりやすく説明しなさい。(100字皋床)

内容説明問題。ここでは、䞀぀のものごず(䟋えば①段萜冒頭の歩いおいる犬)が、それに向き合う人(たち)によっお、倚様に蚘述(描写)される(䟋えばブルドッグ/かわいい犬/散歩しおいる/運動しおいる(①))、ずいうこずである。次④段萜に匕っ匵られお、人(䞀人)が/䞀぀のものごずを/倚様に蚘述にするず意味が党く違っおくるこずに泚意したい。
埌は、倚様な描写を具䜓化するだけである。①④段萜から具䜓䟋の前埌の䞀般的蚘述を抜出し、順序よく䞊べる。向き合う人がどのような関心をどの皋床も぀か(→関心の質ず量)によっお(④)/保持する抂念の䞭から(①)/適圓に取捚遞択された蚀葉により(①)/語、句、文のいずれかの圢においお(③)倚様に描写するのである。

<GV解答䟋>
䞀぀のものごずは、それに向き合う人の、その時々の関心の質ず量や保持する抂念に応じお、その抂念から適圓に取捚遞択された蚀葉により、語、句、文のいずれかの圢においお倚様に描写される可胜性をも぀ずいう意味。(100)

<参考 S台解答䟋>
目の前のものごずを蚀葉で蚀い衚そうずするずきには、察象に察する䞻䜓の関心やその皋床に応じお、䞻䜓のも぀抂念の䞭から適圓なものを取捚遞択し、その抂念を甚いお倚様な蚀い方で描写するこずが可胜であるずいう意味。(102)

<参考 K塟解答䟋>
人が事象に぀いお抂念を遞択し蚀語で描写する仕方は、その察象に぀いおどのような関心をどの皋床の匷さで抱いおいるかに応じお倉化し、その描写を通じお察象はさたざたな物語に䜍眮づけられ知芚される、いう意味。(99)

問䞉 ただし、どんな蚘述でも盞貌に反映されるずいうわけではない(傍線郚(b))ずあるが、蚘述が盞貌に反映されるずはどういう意味か、わかりやすく説明しなさい。(100字皋床)

内容説明問題。問い方が、傍線を盎接聞くのではなくお、蚘述が盞貌に反映されるずいう点を端的に聞いおいるこずに泚意する。そこでただし(限定/前述の内容を原則ずした䞊で、ただし以䞋で郚分的に修正する働き)の性質に着目し、ただしの前の⑀⑥段を䞭心に解答する(傍線自䜓を聞くのならただしに配慮しお⑊⑚段萜が䞭心ずなる)。
もっずも匷い根拠は傍線前文で、⑥段末文それぞれが、その蚘述に応じた盞貌でそれを知芚するのである。぀たり(倚様に蚘述される可胜性を秘める(←問二))䞀぀のものごずは/それを芋る者各自に固有の姿で䞻芳的に把握される(A)ずいうこずである。埌は、その前提ずしお芋る者は/ものごずを蚘述し(⑀⑥)/そこに開かれる兞型的な物語の内に䜍眮づける(⑀⑥)をの前に加える。さらにただし以䞋のパヌトから、⑚段冒頭の関心ず蚘述に応じお知芚される盞貌が異なるを利甚し、解答の始めに加えた。

<GV解答䟋>
人がものごずに向き合い、自らの関心の皋床に応じお蚘述するこずが起点ずなり、圓のものごずは、その蚘述のもずに開かれた兞型的な物語の内に䜍眮づけられ、芋る者に固有の姿をもっお䞻芳的に把握されるずいう意味。(100)

<参考 S台解答䟋>
いた珟圚の行動に圱響を䞎える堎合に、蚘述䞻䜓の関心に応じたものごずの蚘述は、その蚘述のもずに、特有の兞型的な物語を開き、その物語の内にものごずを䜍眮づけるこずで意味づけを行い、それに即しおものごずが知芚されるずいう意味。(110)

<参考 S台解答䟋>
人が察象に抱く関心の匷さに埓っお、その描写は特定の物語の内に䜍眮づけられるが、その人の珟圚の行動に匷い圱響を䞎える堎合には、衚珟はより詳しくなり、その詳しさに応じお察象はより明瞭に思い浮かべられる、ずいう意味。(104)

問四 䞊り坂は物語の䞭でしか衚珟できない(傍線郚(c))ずあるが、どういう意味か、わかりやすく説明しなさい。(100字皋床)

内容説明問題。問䞉で考察した蚘述は盞貌に反映されるのおたけ(⑩)の具䜓䟋(⑩⑪)に関しお聞く問題である。ここは問䞉ずの重なりを避けお、傍線郚の述郚物語の䞭でしかないを具䜓䟋䞊り坂/䞋り坂に即しお説明する問題ず芋抜きたい。具䜓䟋から抜象を導くのではなく、抜象的衚珟を具䜓䟋に即しおわかりやすく説明するのである。
たず傍線の蚀い換えずしお、間に写真による説明/具䜓䟋の具䜓䟋を挟んだ前の文、ある坂が䞊り坂に芋えるか䞋り坂に芋えるかは/どこからその坂を芋るかによる(A)のではなく/その坂を䞊る物語の䞭にいるか、その坂を䞋る物語の䞭にいるかによる(B)を利甚する。ずを⑪段萜の具䜓的説明を参照しお、察比的にたずめる。芋る䞻䜓が芋䞊げるか芋䞋ろすか/芖線の向きで決たる↔䞊る䞻䜓・䞋る䞻䜓ずの/関係(←物語)に䜍眮づけられお決たるずする。に぀いおの蚘述で、⑪段六文目のあるいはの前埌、自己が䞊った堎合ず他者が䞊った堎合を、たずめお䞊る䞻䜓ず衚珟した。

<GV解答䟋>
ある坂が䞊り坂に芋えるか䞋り坂に芋えるかは、芋る䞻䜓が芋䞊げるか芋䞋ろすかずいう芖線の向きで決たるものではなく、䞊る䞻䜓や䞋る䞻䜓ずの関係の䞭に䜍眮づけられるこずではじめお決定されるものだずいう意味。(100)

<参考 S台解答䟋>
䞻䜓が知芚するものごずの盞貌は、察象ずの䜍眮関係である眺望点にではなく、䞻䜓が県前のものごずをどのように芋るかずいう物語に䟝存するため、たずえば坂を䞊るずいう物語においお坂を芋るずきにのみ、「䞊り坂」ずしお知芚されうるずいう意味。(115)

 <参考 K塟解答䟋>
ある坂が䞊りか䞋りかは、芋る人ず坂ずの物理的な䜍眮関係によっおではなく、その坂においおいかなる行動がなされ、芋る人が坂に察しおどんな関心を持぀かによっおでしか、芏定されえないずいう意味。(113)

問五 いた問題にしたいのは、芋えないずいうこずではなく、ないずいうこずが芋えるずいうこずである(傍線郚(d))ずあるが、芋えないずないずいうこずが芋えるずの違いを、わかりやすく説明しなさい。(100字皋床)

内容説明問題。たず芋えない(A)に぀いおは⑫段萜の、冒頭文ず末文(傍線郚)以倖の文のみが根拠になる。ずりあえず、察象の䞍圚や䞻客の䜍眮関係で/芋えない(→知芚が䞍胜な)こずの報告(A)ずしおおく。ないずいうこずが芋える(B)に぀いおは、前提ずしお䞻䜓により察象が蚘述され物語の䞭に䜍眮づけられおいるこず(⑫段冒頭)を抌さえる。その䞊で⑬⑮のパヌト、⑯⑱のパヌトを根拠にしなければならない。
⑬⑮で着目したいのは、⑭段の想定反論知芚のレベルで成り立぀のは瓶の䞭にビヌルが芋えないずいうこずだけに察しお、筆者は知芚を豊かな内容をもちうるものずしお捉えおいる点。぀たり、物語に䜍眮づけられおないずいう盞貌で芋る(⑭)。䟋えば、ビヌル瓶を、ビヌルがないずいう意味のもずに芋るのである(⑮)。⑯⑱からは、そのたずめの郚分から私はその物語を生きおいなければならない(⑱)を拟えばよい。そうしないず、知芚に反映しないのである。以䞊より、䞻䜓により察象が蚘述され/䞡者の間に生きた物語が䜜動しおいるこずを前提に/その察象が䞍圚である状況を芋おいるず説明できる。

<GV解答䟋>
前者は、察象の䞍圚や䞻客の䜍眮関係で知芚が䞍胜であるこずの端的な報告だが、埌者は、䞻䜓により察象が蚘述され䞡者の生きた物語が䜜動しおいるこずを前提に、その察象が䞍圚である状況を芋おいるこずを意味する。(100)

<参考 S台解答䟋>
前者は、察象が存圚しないため、察象の知芚も存圚しないずいうこずの単なる報告であるが、埌者は、ないこずが意味をも぀物語が䞻䜓にずっお生き生きず開かれ、䞍圚の盞貌のもずに、そこに存圚する他の察象が知芚されおいるずいうこずである。(112)

 <参考 K塟解答䟋>
「芋えない」ずは、察象が存圚しないので知芚できないずいうこずの衚珟だが、「ないずいうこずが芋える」ずは、䜕かが存圚しないこずが特別な意味をもち、自己の未来のありように圱響をもたらす堎合の衚珟だずいう違い。(102)