傾向と対策

① 史料・図表・リード文の情報と必要な歴史的知識を発見し、その組み合わせにより正答を導かせる問題が顕著である。

② ひねりの入った時代整序問題が第6問以外の各大問に設けられた他、時期の特定が必要な問題が顕著である。

こうした傾向は、以下の小問形式の分布とも対応している(※昨年比でAタイプが1問(2点分)増え、Cタイプが1問(2点分)減った)。  

 

A. 正答組み合わせ問題→20問(62点)    
 A-1. abcd型→6問(19点)    
 A-2. XY型→6問(18点)    
 A-3. XY-abcd型→5問(16点)    
 A-4. 空欄補充型→3問(9点)  

 

B. 正文・誤文単純選択問題→7問(22点)    
 B-1. 正文選択型→6問(19点)    
 B-2. 誤文選択型→1問(3点) 

 

C. 時代整序問題→5問(16点) 

 

従来のセンター試験ではB形式が大半を占めていたが、共通テストではA形式が6割を占め、A形式の問題に①の傾向が対応している。またC形式においても、文化史や史料の並び替え、事象の特定が必要なものなど、質的にも特色が見られる。 

 

こうした傾向を踏まえ、今後次のような対策を心がけなければならないだろう。 
① 基礎的な知識の習得が必要なのはもちろんだが、分野(政治・外交・経済・社会・文化)を横断する歴史的な視野を身につけること。 
② 前近代においては半世紀単位、近代においては10年単位を目安として時代ごとの特徴をつかみ、歴史的展開の必然性を理解すること。 
③ 古文書を抵抗なく読みこなす能力、複数の資料から必要な情報を抽出する能力を、日頃の学びの実践の中で磨いておくこと。 

 

概して、歴史を知識の暗記として捉える学習には限界があるようだ。知識を先人が与えた結果としてのみ捉えるのではなく、先人と同じく歴史考究の場に身をおき、歴史的な知を確定する作業のミニチュアを、学習者にも再体験させようという願いが見てとれる。

〈大問別講評〉

第1問(テーマ史「地図から考える日本の歴史」18点) 問1は古文書の正確な読み取りとともに「養老」「大化改新」「大宝律令」の前後の特定が問われる。問2は13世紀後半〜14世紀前半の東アジア変動期における日本と周辺国についての時代整序問題。「三別抄の乱」の時期特定が難しいだろう。問3は現代語で書かれた資料から抽出された命題の正誤を判断する問題。問4は古地図の読図と「伊能忠敬」による日本全図作成の背景理解が問われる。問5は近代初期の日朝関係と大戦景気についての基本的知識。問6は大問を通して提示された対話文と資料を総合して命題の正誤を判断する問題。

 

第2問(古代史「古代の法整備の歴史と遣隋使・遣唐使」16点) 問1は古代の信仰をめぐる基本問題。
問2は古代の政治制度についての基本問題。問3は説明文から「菅原道真」「長屋王」「早良親王」を特定して時代整序する問題。問4は古文書の正確な読み取り。問5は大問を通して提示されたリード文と史料を総合して命題の正誤を判断する問題。 

 

第3問(中世史「中世の海と人々との関わりの歴史」16点)
問1は対話文と資料を参考に、設問条件に適合する事物を選ぶ。問2は「法勝寺」「法成寺」「禅宗寺院」の時代整序問題。問3は現代語に直した「撰銭令」に関する史料から、その意図の正誤を判断する問題。特に永楽通宝について「排除してはならない」と断ることは、逆に永楽通宝が「好んで受けとってもらえず」という歴史的事実を裏書きするということを、論理的に判断する必要があった。難問。問4は中世、京都を舞台とした文化についての基本問題。問5は中世の財貨の動きを示した模式図に適切な歴史的事物を当てはめる問題。 

 

第4問(近世史「近世の身分と社会」16点)
問1は対話に合わせて空欄に合う内容を補充する形式だが、実際は江戸の交通・流通に関する基本問題。問2は「糸割符制度」「十組問屋」「株仲間を広く公認・銅座など」の時代整序問題。問3は史料(現代語の解説付き)の正確な読み取り。問4は史料の読み取りと基本的知識を問う。問5は「話し合いと授業の内容を踏まえて」とあるが、実際は江戸の身分制に関する知識問題。 

 

第5問(近代史「幕末から明治にかけての日本」12点)
問1は幕末・維新期の政治史の基本問題。問2は「神風連の乱」「欧化政策」「ええじゃないか」の時代整序問題。問3は史料の正確な読み取りとともに「国定教科書」の時期の特定が求められる。問4は架空人物の生涯の間に起こった歴史的事象の時期と内容の適切さを問う。 

 

第6問(近現代史「旅から調べる近現代史」22点)
問1は近現代における教育制度の基本問題。問2は史料の正確な読み取りと関連知識を問う。上海がアヘン戦争後に開港されたことを知っておく必要があった。問3は近代の日朝関係、日中関係、満洲国についての正確な知識と推論が問われる。満洲国では日本人の植民に伴い神社参詣が行われていたと考えるのが妥当である。また「関東都督庁」が旅順に設置されていたというのは少し細かい。問4は図表と史料の正確な読み取り。問5は日露戦争期から第一次大戦後までの政治・経済・社会についての正確な知識が問われる。問6は沖縄復帰に関する資料の読み取り。問7は戦後の安全保障と第三勢力の動きについての正確な知識が問われる。本問をはじめ周辺諸国との関連で日本の歴史を問う意図が顕著であった。