〈本文理解〉

出典は山崎亮「豊かな「縮充」社会へ」。

①~④段落。さまざまな分野で「量的拡大から質的向上へ」といわれるようになって久しい。(具体例)。こうした変化の大きな要因となっているのが、国内における人口の現象である。長い間、人口は増え続けるものだと考えられ、1970年代には人口抑制策まで打ち出された。2000年代からは念願だったはずの人口現象に転じた。冒頭のスローガンが叫ばれるようになったのは、ちょうどこの頃である。そう考えると「時代はとても良い方向に進んでいるといえよう」(傍線部(1))。増えすぎた人口を減らすことができるチャンスである。より質の高いものを生み出す時代へと変化するチャンスでもある。総人口を適正な人口規模へ戻すことができ、質の高い生活が実現できる契機なのだ。この国の国土に降った雨の量だけで日本人が暮らしていくには、人口4000万人が適正だという説がある。土地の回復力だけで食料を自給した場合も4000万人が適正、自然エネルギーだけで暮らしていくにも4000万人が限界だとか。このままうまく人口が減り続ければ、この国は2200年頃に理想の人口規模へと到達する予定だ。

⑤~⑦段落。ところが、現在の政府は人口減少を喜ばない。経済界も喜ぶどころか憂えている。人口が減ると成立しなくなる仕組みが多いからだろう。(具体例)。しかし、それは現状の構造を変えないまま人口が減った場合生まれる問題である。社会構造や産業構造を変えたくないから、人口を増加させなければ大変なことになると警鐘を鳴らす。しかし、日本の総人口が一億人を下回ったとしても、やり方はいくらでもあるはずなのだ。要するに「減らし方」の問題なのである。「縮減」でも「拡充」でもない。規模を縮小させつつ充実した生活を実現させる、「縮充」の政策が求められるのである。

⑧~⑩段落。「縮充時代の課題」(傍線部(2))は多岐にわたるが、そのひとつは行政依存型住民の意識である。「まちのことは行政にお任せ」が成り立ったのは、人口増加時代に税収と行政職員が増えた時代のことである。これからは「まちのことは自分たちで何とかする」を意識の中心にすえねばならない。江戸期の地域社会では、自分たちで地域社会を運営するという意識が定着していた。地域における活動は、地域の人々が総出で行う「結」、生活に必要なことを学び相互に助け合う「講」、サロンやサークルのような「連」、同業者組合のような「座」などと呼ばれていた。こうした仕組みは多くの地域で戦前まで残り、隣組や町内会などで展開されていた。

⑪~⑬段落。「状況が大きく変わったのは戦後である」(傍線部(3))。終戦直後に占領軍は、強い結束でつながった地域社会が行政や政府や軍部と結びついたことによって、国家総動員の戦争へと向かうことになったと分析した。そこでGHQは町内会を解体するように命じ、同時にその指導によって社会福祉協議会やPTAが組織された。このことは、地域社会が担っていた福祉や教育の役割を別の組織が専任することへつながった(以上⑪段)。高度成長期には、「結」「講」の機能を企業が担うようになっていった。また、道普請や防災は行政の責任において実現してもらうべき項目となった。こうして地域住民は協力して自らの地域で活動する機会をどんどん失っていった(以上⑫段)。その結果、地域社会における人と人とのつながりは薄まり、孤立死が発生したり、災害時の助け合いがうまく機能しなくなった。人口増加は、住む場所と働く場所も機能により分け、座のような同業者組合も地域に存在することは稀なことになった。こうした課題が人口増加によって生まれたのだとすると、次の人口減少時代こそは理想的な縮充を達成しなければならない(以上⑬段)。

⑭~⑯段落。そのひとつとしてまちづくりの活動に着目したい。地域の課題は地域に住む人たち自身が、自分たちの活動によって解決すること。地域のための活動に携わる人口のことを「活動人口」と呼んでみるとする。地域の定住人口が減っても、活動人口が増えれば豊かな地域社会が実現する。地域の活動人口比率を高めることによって主体的な地域運営を実現させ、それによって地域の人たちのつながりを醸成するという戦略があってもいいのではないか。

⑰~⑲段落。「昔に戻れ」というわけではない。「結」や「連」はSNSで実現させてもいい。(中略)。いずれにしても、今の社会構造や産業構造のまま人口減少するのは避けたほうがいいし、それをもって「人口減少は問題だ」と断定してしまうのはもっと避けほうがいい。日本が理想的な人口規模に向かっていると考えるところから、自分たちの生き方を考え始めたい。意識が変われば活動が変わり、活動が変われば生活が変わる。生活が変われば、その地域は少しずつ変わることになるはずだ。「縮充時代に応じた地域社会」(傍線部(4))が誕生すれば、そのモデルは全国に伝わることになる。日本が「縮充」先進国となり、世界の各国が安心して人口を減らすことができるようにしたい。「人口が増えなければ国際競争に勝てない」という悪しき神話から抜け出す国が増えることを願っている。

〈設問解説〉 問一 (漢字/読みはカタカナ指定)

aヤミクモ b推奨 cヤユ dアオ eタキ f据 g陳情 hマレ i携 j醸成

 

問二 「時代はとても良い方向に進んでいる」(傍線部(1))と筆者が考える理由を、本文に即して70字以内で説明せよ。

理由説明問題。傍線部は「そう考えると」に続くので、前②段落から「良い方向(G)」につながる要素として「二〇〇〇年代以降からは念願だったはずの人口減少に転じた(A)」を拾う。ここから、なぜ「人口減少」が「良い」のか、と考え、傍線部の後ろ同③段落から「適正な人口規模に戻すことができ(B)/質の高い生活が実現できる契機(C)」を拾う。さらに、どういう点で「適正」なのかと考え、④段落の具体的な記述を参考に「(日本の)自然の回復力に見合っている(D)」、という内容を導く。A→(D/B+C)→(G)という流れで解答を構成する。

<GV解答例>
二〇〇〇年代以降、日本の人口が減少局面に転じたことで、自然の回復力に見合った適正な人口規模と、質の高い生活を実現できる契機を迎えているから。(70)

<参考S台解答例>
人口が減少に転じ、量から質への転換が目指される現代は、総人口を適正な人口規模に戻すことができ、質の高い生活が実現できる契機になりうるから。(69)

<参考 K塾解答例>
人口が減少に転じて総人口が適正な人口規模になると、大量に作るのではなく、より質の高いものを生み出し、質の高い生活を実現できるようになるから。(70)

問三 (空欄補充)

(1)ウ (2)コ

問四 「縮充時代の課題」(傍線部(2))とあるが、筆者が考えている解決すべき問題点はどのようなものか。30字以内で説明せよ。

内容説明問題。傍線の直後に、「(課題は)多岐にわたるが、そのひとつは行政依存型住民の意識」とあるので、「行政依存型住民の意識(a)」が解決すべき問題点の一つであることは間違いない。その意識は、後に続く記述にあるように「人口増加時代」を前提としたものだった。ただ、「aとbとcと…である」という答え方では網羅性にかけるし、「二つ目」以下も本文に明示されていない。a要素を「一般化」し、a要素を含む形で、「(問題点は)A」として答えたいところだ。そこで、本文全体を見渡してAの手がかりを探すと、⑤段「政府は人口減少を喜ばない/経済界も…憂えている/社会構造や産業構造を変えたくないから人口減少が問題視され/人口を増加させなければ…と警鐘を鳴らす」とあり、結論に近い⑰段に「今の社会構造や経済構造のまま人口減少することは避けたほうがいい」とある。これらを総合すると、「政府も経済も住民も(→国民各層)が/人口増加を前提とした/既存の社会構造(産業構造も含む)に依存している」、その意識(A)を変革することが、人口減少の「縮充」時代を導くための課題だと、筆者は主張するのである。

<GV解答例>
人口増加を前提とした既存の社会構造に依存する国民各層の意識。(30)

<参考 S台解答例>
現状の構造を変えないまま、人口の減少に対応しようとするもの。(30)

 <参考 K塾解答例>
政府や経済界や住民の意識が、人口増加時代のまま変わらない点。(30)

問五 「状況が大きく変わったのは戦後である」(傍線部(3))とあるが、どのように変わったのか。本文に即してその変化の原因と結果を、100字以内でまとめよ。

内容説明問題(部分要約)。設問の条件も踏まえて、基本的な解答形式は「Aが、R(原因)によって、(その結果)Bとなった」となる。A(かつて)は⑨⑩段落、Rは傍線のある⑪段落、Bは⑪~⑬段落の広い範囲を「まとめる」。AとBは対比的に表現したい。Aは、江戸でいう「結」「講」「連」「座」(⑨)、明治以降の「隣組や町内会」など(⑩)の地域社会の組織にあたるが、一般化して「地域住民による/自発的な(↔️依存)/相互扶助の結合体」とする。それが、「占領軍(GHQ)により/戦争に荷担したと見なされ/解体を命じられた」(R)。その結果、「福祉や教育の役割を別の組織(社会福祉協議会やPTA)が専任(⑪)(a)」「「結」(「講」も)の機能が次々に産業化され(⑫)(b)」「地域住民は協力して自らの地域で活動する機会を…失って(⑫)(c)」「人と人とのつながりは薄まり(⑬)(d)」「住む場所と働く場所がバラバラになり、座のような同業者組合が存在することは稀なことなった(⑬)(e)」。以上をまとめ、Bは「行政や企業が住民サービスを担い(ab)/職住の分離も進むなかで(e)/住民の社会参加が弱まり(c)/孤立も深まった(d)」とした。
「ゲマインシャフトからケゼルシャフトへ」(テンニース)の移行が進む中、拠り所を失った「個」が産出されるのである。

<GV解答例>
地域住民による自発的な相互扶助の結合体が、終戦直後、戦争に荷担したとの理由で占領軍に解体させられ、その結果、行政や企業が住民サービスを担い、職住の分離も進む中で、住民の社会参加が弱まり孤立も深まった。(100)

<参考 S台解答例>
強い結束でつながった地域社会が国家総動員の戦争に突き進んだ要因であるとされ、戦前までの地域社会の役割の縮小が促されたことが原因で、地域住民が協力し、活動する機会が失われ、人と人とのつながりが薄まった。(100)

 <参考 K塾解答例>
戦後、町内会が戦争に荷担したことが明らかになって、それまで町内会が担ってきた様々な役割が別の組織に移し替えられた結果、地域住民が協力して活動する機会が失われ、地域社会の人と人との関係も希薄になった。(99)

問六 「縮充時代に応じた地域社会」(傍線部(4))とあるが、筆者はどのような社会と考えているか。本文に即して50字以内で説明せよ。

内容説明問題。傍線部のあるところから確認すると、そうした「地域社会」は、全国へのモデルとなりうるものである。そうした先見性を持ったものとして「地域社会(A)」を捉える。加えて傍線部前半「縮充時代に応じた(B)」にも配慮して解答を構成する。Aについては、⑭⑮段落が根拠となる。ここから、「地域の課題は地域に住む人たち自身が解決する(⑭)」「主体的な地域運営を実現させ…地域の人たちのつながりを醸成する(⑮)」を合成してまとめる。Bについては、筆者の定義語「縮充」を説明している⑦段落を参照する。「適正な人口規模で(←縮)/充実した生活を実現する(←充)/ため(←応じた)」として後半につないだ。

<GV解答例>
適切な人口規模で充実した生活を実現するために、地域の課題を住民が絆を深めながら主体的に解決する社会。(50)

<参考 S台解答例>
定住人口は少なくても、住民の多くが主体的に地域を運営し、人々が緊密につながった質的に豊かな地域社会。(50)

 <参考 K塾解答例>
人口が減っても主体的に地域活動に携わる人の比率は高く、人々が強く結びつき、充実した生活を送れる社会。(50)