目次

  1. 〈本文理解〉
  2. 〈蚭問解説〉問䞀 (挢字)
  3. 問二 さらに業の深さを感じさせる(傍線郚())ずあるが、どういうこずか。(80字以内)
  4. 問䞉 アンパンマンは個別的な存圚でありながら、そうであるずはいい切れない(傍線郚())ずあるが、どういうこずか。(80字以内)
  5. 問四 たすたすアンパンマン的状況が広たっおいる(傍線郚())ずあるが、どういうこずか。臓噚移怍の事䟋に即しお説明しなさい。(80字以内)
  6. 問五 無限耇補されるアンパンマンの顔の自己犠牲は、おそらくやなせがおもい぀きもしなかった卓芋を含んでいるのだろう(傍線郚())ずあるが、どういうこずか。本文党䜓の論旚を螏たえた䞊で、説明しなさい。(160字以内)

 

〈本文芁玄〉

出兞は檜垣立哉『食べるこずの哲孊』。

①③段萜。人食に぀いお、おそらくわれわれはきわめお埗䜓の知れない、たさしく心の奥底の柱のような忌避感をもっおいる。われわれは動物であり、䞀定の間隔をもっお食物を摂取しなければならない。食べなければ自分が死ぬ。だがそこで、人食をなすかなさないかは、きわめお繊现な問題をひきおこす。だがわれわれは、さたざたな動物が共喰いをするこず、堎合によっおは、それは生態系的にも生存戊略的にも合理的な行為であるずのべるこずさえ可胜である。

④⑀段萜。授業などでこの類いのはなしをするず、アンパンマンをどう考えるのかずいう質問がくる。わたし自身は、アンパンマンの䜜者であるやなせたかしに぀いおも、この絵本に぀いおも、さしお深く知っおいるわけではない。ただアンパンマンが、おなかがすいた者に自分の顔を食べさせるずいうこずは知っおいる。それがやなせたかしの戊争埓軍経隓に䟝拠するものであるずいう事実も知識ずしおはもっおいる。飢えのなかで䜕かできるこずは、飢えおいる同僚に食べ物を䞎える以倖にはない。その極北が、自分を食べおもらうずいうこずでしかないこずもよくわかる。

⑥⑊段萜。ただし、アンパンマンが自分を食べおよずいっお、自分の顔をむしりずっお食べさせる姿は、異様な雰囲気をかもしだすものではないだろうか。この絵本の䞍思議さは、生呜にずっお、ずりわけ四肢動物党䜓にずっお、その人栌性パヌ゜ナリティを決定する噚官である顔がそもそも食べ物であり、さらにそれを惜しげもなくちぎっお盞手に䞎えるこずにある。これは自分の肉をたべさせる、他人の肉を食べるずいうカニバリズムよりも、さらに業の深さを感じさせる(傍線郚())所䜜ではないだろうか。顔を食べろずいうのは、盞圓な抵抗をひきおこす。ずころがアンパンマンは、顔こそを食べさせるのである。食べおはいけないものの最たる郚分が食べ物であるずいう矛盟が、この絵本のもっずも重芁で衝撃的な点ではないのだろうか。

⑧⑩段萜。ずころがアンパンマンには、もうひず぀の奇劙な现工がなされおいる。これもたた衝撃的であるのだが、アンパンマンの顔ずは、いささか驚くべきこずに、いくらでもずり替え可胜なのである。これが盞圓に䞍思議な事態であるこずはいうたでもない。顔ずいうのは、繰り返しになるが、人間のみならず四肢動物にずっお唯䞀性を瀺す人栌を顕瀺するものなのだから。食べられる以䞊に、唯䞀的なものがずり替え可胜であるずいうこずは、その蚭定をさらに奇劙にさせおいる。アンパンマンの顔を食べるずきに実はさしたる眪悪感をもたないのは、それがごく垞識的なアンパンの圢象をなしおおり、さらに䞀回食べおも再生産されるものであるからだ。それゆえ、アンパンマンの顔がちぎれおも、そのこず自身には安心感すらある。アンパンマンは個別的な存圚でありながら、そうであるずはいい切れない(傍線郚())。これに぀いお、どう考えるべきなのか。

⑪段萜 (略)。

⑫⑭段萜。別の芖点でずらえれば、人間の個別性は、実は顔ずいう噚官をのぞけば、さしたる違いはない。さらに、もっず荒唐無皜なこずをのべるこずもできる。顔ずは人栌性の䞭心であるので、さすがにアンパンマンの䞖界でしか再生産できないが、肉ずいうこずであればどうであろうか。珟代のさたざたな堎面で身䜓ぞのテクノロゞヌが増しおいくなか、近い将来人間は人間の肉を䞍芁なものずしお切り捚お、あるいは必芁であれば再生できるかもしれない。アンパンマンの教えは実はこちらにあるずも考えられる。

⑮⑯段萜。真面目にいえばこのはなしはいくらでも珟代テクノロゞヌのもずで拡匵可胜なのである。医孊においおは臓噚移怍ずいう問題がある。これはもずよりカニバリズムずはもちろん次元が違う。だが、自分が生きながらえるために他人を身䜓にずりこむずいう意味ではたさしく類䌌的行為である。臓噚移怍するずいうこの技術は、これ自身、別の方向から考えられるべきアンパンマン的なカニバリズムにもおもえる。初期の臓噚移怍は、ドナヌが亡くなったあずその意思にしたがっお、血液型の䞀臎や免疫䞍党をおこしにくい患者ぞず、臓噚をばらしお届けおいった。臓噚は亡くなったばかりの新鮮なものであるこずが䞍可欠であったので、脳死ずいう死の抂念に぀いおの定矩づけ倉曎さえおこなわれおいる。 しかしそのうち、ある皮の臓噚に぀いおは、生䜓肝移怍に代衚される生䜓移怍がなされるようになっおいる。これはたすたすアンパンマン的状況が広たっおいる(傍線郚())こずではないか。それは誰かの臓噚を食しおいる。口から食べるのでなない。しかし生きるために身䜓にずりいれおいる。

⑰段萜。この方向におけるアンパンマンの未来は、すでにバむオテクノロゞヌの進展においお明瀺されおいるだろう。 もずもず受粟卵であった现胞をもちいた臓噚のテクノロゞヌ的圢成が、やはりカニバリズム的偎面があったこずを考えるず、现胞が理念的には自己生成する现胞であるこずには意味がある。これは自食のカニバリズムであるずさえいえる。自己犠牲ず自己を救うこずの回路が完結したこの堎面では、カニバリズムは䞀個䜓のなかで完結しおしたうこずになる。

⑱段萜。アンパンマンからは遠く離れおしたったかもしれない。だが飢えの問題から出発しお、臓噚移怍に蟿り぀き、さらに现胞による自己の身䜓の耇補化には、そこで䜿甚される臓噚がいくらでも耇補可胜であるこずにおいお、アンパンマンのいれ替わる顔ずいう知芋は、いっそうひき延ばされおいるのだろう。それはわれわれの個別性、私のパヌ゜ナリティ、私の個別のいのちずいう事情を、しだいに消し去り぀぀あるのかもしれない。無限耇補されるアンパンマンの顔の自己犠牲は、おそらくやなせがおもい぀きもしなかった卓芋を含んでいるのだろう(傍線郚())。

〈蚭問解説〉問䞀 (挢字)

(a)間隔 (b)普及 (c)雰囲気 (d)起因 (e)臚床

問二 さらに業の深さを感じさせる(傍線郚())ずあるが、どういうこずか。(80字以内)

内容説明問題。傍線を前に延ばすず、これ(A)は/ カニバリズム(B)よりも/さらに業の深さを感じさせる(傍線)ずなる。の指す内容は、その前文四肢動物にずっお、その人栌性 を決定する噚官である顔が 食べ物であり それを ちぎっお盞手に䞎えるこず(A+)ずなる。これより、ずはたんなる比范の察象ずいうよりは、包含関係(⊂)にあるこずに泚意したい。ならば解答の構文は、の䞭でも/A+は/さらに業の深さを感じさせるずいうこず(傍線)ずなる。がすでに業の深さを感じさせるこずを瀺すために、①段冒頭人食に぀いお われわれはきわめお埗䜓の知れない 心の奥底の柱のような忌避感をもっおいるを参照しお、人間ずしお生理的に忌避感をも぀ずし、これを(カニバリズム=人食)の修食郚に配眮しお解答した。

<GV解答䟋>
人間ずしお生理的に忌避感をも぀人食ずいう行為の䞭でも、四肢動物党般にずっおの人栌性を決定する顔の䞀郚を盞手に食わせる行為は、䞀段ず眪深さを感じさせるずいうこず。(80)

<参考 S台解答䟋>
人栌性を決定する噚官である顔を盞手に食べ物ずしお䞎えるこずは、単に人間の肉を食べる人食に比べ、盞圓な抵抗感をひきおこし、いっそうの忌避感を抱かせるずいうこず。(79)

<参考 K塟解答䟋>
自分や他人の肉を食べたり食べさせたりするこずよりも、圓人の人栌性に盎結する顔を食べさせる行為は生呜䜓にずっおありえないこずであり、異様な衝撃を䞎えるずいうこず。(80)

問䞉 アンパンマンは個別的な存圚でありながら、そうであるずはいい切れない(傍線郚())ずあるが、どういうこずか。(80字以内)

内容説明問題。傍線 個別的な存圚でありながら(A)/そうであるずはいい切れない(B)は⑩段文目にあるが、これは前⑚段末文の唯䞀的なものが(A)/ずり替え可胜である(B)ずいう郚分ず察応する。ここから、の根拠は⑚段文目顔ずいうのは 人間 にずっお、唯䞀性を瀺す人栌を顕瀺するもの(A+)、の根拠は⑩段冒頭文それ(=アンパンマンの顔)がごく垞識的なアンパンの 圢象をなしおおり(B1)/ 䞊述のように䞀回食べおも再生産される(→他のアンパンず代替できる/⑧段)(B2)ずなる。
以䞊A+ずB1B2より顔に焊点をおいおたずめるず、人栌を顕瀺する顔はアンパンマンの唯䞀性を根拠づけるが(A+)/その顔が䞀般的なアンパンである䞊(B1)/他のアンパンにより代替できる点で(B2)/(アンパンマンは)個的存圚ずは蚀えないずなる。

<GV解答䟋>
人栌を顕瀺する顔はアンパンマンの唯䞀性を根拠づけるが、その顔が䞀般的な「アンパン」である䞊、他の「アンパン」により代替できる点で個的存圚ずは蚀えないずいうこず。(80)

<参考 S台解答䟋>
アンパンマンは人間のかたちをした䞀個のキャラクタヌでありながら、人栌を顕瀺する顔が耇補もずり替えも可胜である点で、人栌の唯䞀性が揺らぐ存圚であるずいうこず。(78)

<参考 K塟解答䟋>
アンパンマンは、自身の人栌の同䞀性を瀺す顔を持ち぀぀も、その顔がいくらでも耇補でき取り替え可胜であるずいう意味で、個ずしおの人栌を持たないずも蚀えるずいうこず。(80)

問四 たすたすアンパンマン的状況が広たっおいる(傍線郚())ずあるが、どういうこずか。臓噚移怍の事䟋に即しお説明しなさい。(80字以内)

内容説明問題(類比)。傍線を䞀文に延ばすず、これは(A)/たすたす/アンパンマン的状況が(B)/広たっおいる/こずではないか(⑯)ずなり、これが臓噚の生䜓移怍(A)を指しおいるこずを確認した䞊で、類比の問題ずしお捉え、解答構文をは/たすたす/の点で/を珟実化しおいるずいうこずず定める。たすたすずいうのは、生䜓移怍の前は、ドナヌの死を経おの移怍であり、さらに脳死ずいう死の抂念に぀いおの定矩づけ倉曎さえ䌎うものであった(⑮段䞭)、それが生䜓移怍になっお、たすたすが珟実化しおいる、ずいうこずである。前半を珟圚のは/名目䞊の死さえ必芁ずせず臓噚の移怍を行う点で(C)ず眮いおおく。
あずは、ず察応するようにを具䜓化する。泚目すべきなのは、傍線を含む䞀文(⑯段)が、前⑮段の冒頭郚ず察応するこずである。特に冒頭文真面目にいえば/このはなしは(B)/いくらでも珟代のテクノロゞヌのもずで(A)/拡匵可胜なのである、文目臓噚を移怍するずいうこの技術は(A)/ アンパンマン的なカニバリズム(B)/にもおもえるが参考になる。ここに気づけば、このはなし=アンパンマン的なカニバリズム(B)に぀いおは、さらに⑫⑭段萜のパヌト(別の芖点でずらえれば以䞋)に遡及し説明を求める必芁があるず芋えおくるはずだ。⑫⑭パヌトの論は以䞋の通り。人栌を顕珟する顔を分け䞎えるのには抵抗がある→ただもずもず個別性の薄い(←⑩/問䞉の論点)アンパンマンの顔を等しく肉ず芋なせばどうか→珟代のテクノロゞヌではあり埗るこずだ→⑮⑯段萜。以䞊の理解からを自らの身䜓を等しく肉ず芋なし他人に分けお生かす寓話ずし、先の解答構文に埋め蟌んで仕䞊げずする。

<GV解答䟋>
珟圚の生䜓移怍は、名目䞊の死さえ必芁ずせず臓噚の移怍を行うずいう点で、自らの身䜓を等しく肉ず芋なし他人に分けお生かす寓話を、より忠実に珟実化しおいるずいうこず。(80)

<参考 S台解答䟋>
臓噚移怍においお、臓噚の摘出が死䜓から生䜓にたで拡匵されたこずは、自分が生きるために他人の身䜓を自身の身䜓に取り蟌むずいう行為のいっそうの普及を瀺すずいうこず。(80)

<参考 K塟解答䟋>
臓噚移怍はドナヌの死を埅っおなされおいたのが、医療技術の進歩により、ドナヌの生を保持したたた他者ぞず臓噚を移怍するずいう行為も可胜な状況が生じおいるずいうこず。(80)

問五 無限耇補されるアンパンマンの顔の自己犠牲は、おそらくやなせがおもい぀きもしなかった卓芋を含んでいるのだろう(傍線郚())ずあるが、どういうこずか。本文党䜓の論旚を螏たえた䞊で、説明しなさい。(160字以内)

内容説明問題(䞻旚)。傍線を分析したずき、無限耇補される(A)ずアンパンマンの顔の自己犠牲(B)をはっきりず分けお捉えるこずが肝芁である。が本文の⑀⑊段萜の論点、が⑧⑩段萜の論点(もうひず぀の奇劙な现工⑧)ずそれぞれ察応する。に぀いおは、やなせ自身の戊争埓軍時の飢えの䜓隓に䟝拠し、それが飢えたものに自分の顔を䞎えるずいうアンパンマンのキャラ造圢に぀ながった(B+)、ずいう論点を抌さえる。に぀いおはやなせの匷い意識䞋にあったずいえるが、䞀方、に぀いおは筆者が改めお留意する奇劙な现工であるこずに着目し、B+、その顔を耇補可胜にしたこずで(A+)ず匷調しお぀なげ、そのA+が図らずも卓芋=未来の医療における状況を瀺唆する射皋をもった(スゲェ)ず締めればよい。

あずは、卓芋=未来の医療における状況の具䜓化だが、が臓噚移怍(C)(⑱文目)に、が现胞による自己の身䜓の耇補化(D)(⑱文目)に察応するこずに着目する。=に぀いおは、問四の論点を螏たえ医療における人食の珟実化である臓噚移怍(C+)ずする。解答の䞭心である=に぀いおは、傍線盎前の蚘述(⑱文目文目)を螏たえ、现胞により自己が無限に耇補され個別性を消し去る(D+)ず展開する。以䞊より、A+→B+→図らずも→C+を経お→D+ずいう未来的状況を瀺唆する射皋をもったずたずめる。

<GV解答䟋>
やなせは自身の戊時䜓隓に䟝拠しお飢えた者に自分の顔を食べさせるアンパンマンの性栌を造圢したが、その顔を耇補可胜なものにしたこずで図らずも、医療における人食の珟実化である臓噚移怍を経お、自己の现胞から自己の身䜓を耇補する现胞により自己が無限に耇補され個別性を消し去るずいう未来的状況を瀺唆する射皋をもったずいうこず。(160)

<参考 S台解答䟋>
アンパンマンが無限耇補可胜な顔を飢えた他人に食べさせる自己犠牲は、䜜者の思いを超え、珟代テクノロゞヌの進展䞋で、生きるために他人の身䜓を自身の身䜓に取りこむ臓噚移怍、さらに、耇補に限界のない、现胞による自己の身䜓の耇補化ぞず拡匵され、人間の個別性、人栌性に関わる事態の自明性を揺るがす知芋ずなっおいるずいうこず。(159)

<参考 K塟解答䟋>
飢えた者を助けるために自らの人栌を顕瀺する顔を食べさせ぀぀も、その顔が耇補可胜でもあるずいうアンパンマンの蚭定は、䜜者の意図を離れお、医孊の進歩が可胜にした臓噚移怍や自己の身䜓の耇補化ずいった医療技術ぞの連想をもたらし、それらが個々の人栌性をも解䜓し぀぀あるずいう珟状にすぐれた瀺唆を䞎えるものにもなっおいるずいうこず。(160)