目次

  1. 〈本文理解〉
  2. 問一 (漢字)
  3. 問二「質が低い(というレッテルが貼られた)生」とある。筆者が、ただ「質が低い生」とせずに、「というレッテルが貼られた」という語句を挿入したのはどのような意図からか。説明せよ。(二行)
  4. 問三「生の始まりと終わりをめぐる問題は驚くほど相似的なものである」とある。両者は、どういう点で相似的だというのか。本文中の語句を用いて説明せよ。(二行)
  5. 問四「こうしたことから言えるのは、「尊厳死」という言葉が、なにか特定の行為(内容)を指すというよりは、「ある種のイメージ」を伝える言葉であるということだ」とある。
  6. 問五「いかにしたら「尊厳ある生」を守り、支えることができるのかを問う前に、「死なせる」によって尊厳が守られる、という安易な対処がいかに危険であるか」とある。筆者は何を「危険」視しているのか。説明せよ。(二行)
  7. 問六「人工呼吸器の装着は悪い意味での「延命治療」として、忌避する選択肢になってしまう」とある。これはどういうことか。「悪い意味での「延命治療」」とは何かを明確にして説明せよ。(四行)
  8. 問七 筆者によると、「尊厳死」や「延命治療」という言葉は、現代医療においてどのように作用しているか。本文全体をふまえて100字以内で説明せよ。

〈本文理解〉

出典は安藤泰至「生命操作システムのなかの〈いのち〉—生の終わりをめぐる生命倫理問題を中心に」。

前書きに「次の文章は、現代医療において人の生や死がどう扱われているかを論じた文章の一部である。筆者は、この部分に先立ち、現代医療では人を「死なさないベクトル」と「死なせるベクトル」の両方が一体となって存在していると述べている」とある。

①段落。人々が「病気や障害がないこと」「より健康であること」を過剰なほどに求める社会というのは、病気や障害を持つことや老いることに対する私たちの不安を煽り続ける社会でもあり、実際に病気や障害をもって生きる人々の価値を低め、極端な場合には彼らを排除し、抹殺していく社会でもある。こうした「より質の高い生」への希求と「「質が低い(というレッテルが貼られた)生」」(傍線部(1))の抹殺という組み合わせこそ、これまで「優生思想」という名で語られてきたものに他ならないし、言うまでもなくそれを国家政策として極端な形で現実化したのがナチスドイツであった。

②段落。もちろん、現代においては「治らない」病気の人々や障害のある人々を「生きる価値がない存在」などとして排除し、抹殺することはない。しかし、出生前診断によって胎児が出生後に障害をもつことが分かった際に中絶することなどをめぐっては、「いのちの選別」であるとか、優生思想の現れであるといった批判は繰り返されてきた。妊娠・出産といった生の始まりをめぐる生命操作においてもまた、よりよい(とされる)生をデザインしていくようなベクトルと、悪い(というレッテルを貼られた)生を生きるであろう胎児や受精卵を排除していくようなベクトルとは、相互補完的な一体性をもって進んできていると言えるだろう。

③段落。このように、人間の誕生や死をある特定の価値観を背景にして人為的にコントロールするための「相互補完的な一体性をもって進む生命操作システム」という観点でとらえてみるならば、「生の始まりと終わりをめぐる問題は驚くほど相似的なものである」(傍線部(2))ことが見えてくる。

④段落。現在日本では「尊厳死法制化」の是非が議論になることが多い。「尊厳死」という言葉には世界共通の定義はないが、日本では延命治療の差し控えや中止(「何かをしないことによって死なせる」ため「消極的安楽死」と呼ばれることもある)を指していることが多い。…

⑤段落。しかし、この「尊厳死」という言葉は、欧米では現在「医師幇助自殺(Physician Assisted Suicide, PAS)」を指すことが多く、場合によっては積極的安楽死を含んで用いられることもある。医師が患者に致死薬を処方し、患者がそれを飲んで自殺するという医師幇助自殺(PAS)を世界で初めて合法化(1997)したオレゴン州の法律は「オレゴン州尊厳死法」と呼ばれているが、こういう名称が選ばれたのも、同法案の是非をめぐる住民投票の前に安楽死協会が行ったアンケート調査(住民投票で積極的安楽死やPASを何と呼ぶのが望ましいか?)において、圧倒的多数で「尊厳死(Death with dignity)」という語が選ばれたことが大きい。「こうしたことから言えるのは、「尊厳死」という言葉が、なにか特定の行為(内容)を指すというよりは、ある種のイメージを伝える言葉であるということだ」(傍線部(3))。

⑥段落。「尊厳死」という言葉は、そもそも括弧つきでしか使えない。なぜならそれは「尊厳のある死」一般を指すのではなく、「尊厳のない状態で生きている」と見なされる人、あるいは延命のための医療的介入によってそうなるであろうと見なされる人を「死なせる」ないし「そういう介入をしない」ことによって「尊厳ある死」を実現しようとする、特定の行為ないしは不作為を指すからだ。そもそも「尊厳」とは何なのか、ということはここで置いておくとしても、さしあたり次の二つのことは強調しておかねばならない。第一に、死に至るまで人は「生きている」のであるから、ここで対置されているのは「尊厳のない死」と「尊厳のある死」ではなく、実は「尊厳のない生」と「尊厳のある死」だということである(つまり「尊厳死」とは「そんな(尊厳のない状態で生きている(生かされている)ぐらいであれば、死ぬこと(によって尊厳を守ること)を選ぶ」ということに他ならない)。もう一つは、「尊厳死」という言葉によって、その前提になるような「尊厳のない状態」「尊厳のない生」が何によってもたらされているのか、という問いをきちんと問うことが妨げられてしまうという点だ。「尊厳ある生」を支えるための医療やケアが不十分ななかで、「いかにしたら「尊厳ある生」を守り、支えることができるのかを問う前に、「死なせる」によって尊厳が守られる、という安易な対処がいかに危険であるか」(傍線部(4))は明らかであろう。

⑦段落。「尊厳死」という美しい言葉が初めから「良いもの」という含みをもっているのとは逆に、「延命治療」という言葉は「悪いもの」という含みをもって使われることが多い。…「延命治療」という言葉で何を指すかについてはかなりの幅があるが、一般的には「治療や回復にはつながらない治療」、その中でも特に「QOLが低い状態で生物学的な生命だけを延ばすような治療」といったマイナスのイメージを伴って使われることが多い。…

⑧段落。しかしながら、延命のための特定の医療的介入がそのような悪い意味での「延命治療」になるか、あるいは当人や家族の「生活」「人生」「いのち」を支えるものになるかは、医学・医療の枠組みやそれに強く支配されている意思決定のセッティングのもとでは判断できないことがしばしばである。人工呼吸器の装着は「延命治療」の代表的なものの一つだが、たとえば、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患い、人工呼吸器をつけて24時間介護で生活している人のなかにも、さまざまなケアやサポートに支えられて、多くの人と交わり、旅行をしたり本を書いたりして充実した生活を送っている人は少なくない。そういう人にとって、人工呼吸器の装着は視力の低い人が眼鏡をかけるのと同じく、その人が自分らしく生きられるための一つのツールなのだ。しかし、病気の進行のために自力呼吸が困難になり、人工呼吸器を装着するかどうかの「選択」を迫られたときに、人工呼吸器をつけてこのように人生を楽しんでいる人もいることを知らされないまま選択させられたらどうであろうか。そのとき患者や家族に説明する医師がそうした人々の生活をまったく知らないまま、偏った情報提供をしたらどうであろうか。そのとき、「人工呼吸器の装着は悪い意味での「延命治療」として、忌避する選択肢になってしまう」(傍線部(5))のである。

〈設問解説〉問一 (漢字)

a.過剰 b.解析 c.尚早 d.e.不祥事

 

問二「質が低い(というレッテルが貼られた)生」とある。筆者が、ただ「質が低い生」とせずに、「というレッテルが貼られた」という語句を挿入したのはどのような意図からか。説明せよ。(二行)

表現意図説明問題。語義から考えると、「レッテルを貼る」とは、対象の評価について一方的に断定することである。よって、ここでの「低い」という評価は客観的な妥当性を欠くものである、ということを筆者は言いたいのである。そして、この評価は「「病気や障害がないこと」「より健康であること」を過剰なほどに求める」(①段冒頭)現代社会の暗黙(自明)の価値観に基づく偏見に由来するのである。以上より、「「低い」という評価は/健康を過剰に求める現代社会の暗黙の価値観に基づく偏見に由来し/客観的な妥当性を欠くことを示す意図」とまとめる。

〈GV解答例〉

「低い」という評価は、健康を過剰に求める現代社会の暗黙の価値観に基づく偏見に由来し、客観的な妥当性を欠くことを示す意図。(60)

〈参考 S台解答例〉

病気や障害をもつ人々の生の価値を低いとみなすのは、実質的なものではなく、特定の価値観の決めつけによるものであることを示す意図。(63)

〈参考 K塾解答例〉

残された人生の内容の質が実際に低いのではなく、特定の社会が勝手に決めつけたものにすぎないことを示す意図。(52)

問三「生の始まりと終わりをめぐる問題は驚くほど相似的なものである」とある。両者は、どういう点で相似的だというのか。本文中の語句を用いて説明せよ。(二行)

内容説明問題。直前の「このように、人間の誕生や死をある特定の価値観を背景にして人為的にコントロールするための「相互補完的な一体性をもって進む生命操作システム」という観点でとらえてみるならば…(傍線部)」を利用して、「Aという価値観を背景に/人の生命を人為的にコントロールすることから生じる点」と解答構文を定める。ここでの「人為的なコントロール」とは、本文の例で言うと「始まり」における出生前診断や「終わり」における「尊厳死」のことであり、これらから「生の始まりと終わりをめぐる問題(→アポリア)」が生じるのである。

あとは、指示語「このように」をたどってAを具体化すればよい。その指示内容は、前②段落「よりよい(とされる)生をデザインしていくようなベクトルと、悪い(というレッテルを貼られた)生を生きるであろう胎児や受精卵を排除していくようなベクトルとは、相互補完的な一体性をもって進んできていると言えるだろう」となるので、ここからAにあてはまる部分を一般化してまとめると「「よりよい」生を求め/それに反する生を排除する(という価値観)」となる。これを先の解答構文に代入して仕上げとする。

〈GV解答例〉

「よりよい」生を求め、それに反する生を排除するという価値観を背景に、人の生命を人為的にコントロールすることから生じる点。(60)

〈参考 S台解答例〉

両者は、「より質の高い生」への希求という特定の価値観を背景にして、人間の生命を人為的にコントロールする点。(53)

〈参考 K塾解答例〉

より質の高い生への希求という特定の価値観を背景にして、人の命を人為的にコントロールしている点。(47)

問四「こうしたことから言えるのは、「尊厳死」という言葉が、なにか特定の行為(内容)を指すというよりは、「ある種のイメージ」を伝える言葉であるということだ」とある。

1「ある種のイメージ」とはどのようなイメージか。それを具体的に表す語句を本文中から二つ抜き出せ。

〈解〉美しい 良い

2 筆者は、「尊厳死」という言葉のイメージが、「オレゴン州尊厳死法」の成立にどう関わったと述べているのか。本文の内容に即して説明せよ。(三行)

内容説明問題。もちろん前文から「同法案の是非をめぐる住民投票の前に安楽死協会が行ったアンケート調査(住民投票で積極的安楽死やPASを何と呼ぶのが望ましいか?)において、圧倒的多数で「尊厳死(Death with dignity)」という語が選ばれた」を利用する。ただ「積極的安楽死やPASを可能にする/同法案の是非をめぐる住民投票で/尊厳死という語が採用されたこと」(A)は、法案成立の重要な起点ではあるが、これをもって「関わり」の総体とするのは十分ではない。ここからは、小問1との関連で、「尊厳死」に含まれる「美しい」「良い」といったポジティブな要素が、住民の投票行動に影響を与えた(B)、と導くことができる。

これに加えて「本文の内容に即して」という設問の断りにこだわり、広く根拠を探してみよう。すると、傍線部の次の⑥段落(「尊厳(死)」についての2つの留意点)の「第一に」以下、「尊厳のある死」に対置されるのは、実は「尊厳のない生」である、という内容に着目できる。ここでの「対置」というのは、「生きている」人の意識の上でのものである。これをABと合わせて考えると、「住民投票で尊厳死という語が採用された→住民の意識の上で「尊厳のある死」に「尊厳のない生」が対置された→「尊厳のない生」への忌避感も加わって「尊厳死」への住民の同意が促された」という筋が浮かび上がる。解答は指定の行数で簡潔にまとめた。

〈GV解答例〉

積極的安楽死やPASを可能にする同法案の是非をめぐる住民投票で、尊厳死という語が採用されたことにより、「尊厳のある死」に「尊厳のない生」が意識の上で対置され、住民の同意が促された。(90)

〈参考 S台解答例〉

医師幇助自殺だけでなく積極的安楽死を含んで用いられる場合もある「尊厳死」が、内容を問うこともなく、「尊厳死」という言葉の肯定的なイメージだけで、住民の支持を得ることで成立に関わった。(91)

〈参考 K塾解答例〉

延命治療の差し控えや中止ばかりか、医師による患者の自殺の幇助も含めたものであるのに、耳に聞こえの良い言葉が覆い隠し、尊厳死の内容を十分に検討させないまま成立させた。(82)

問五「いかにしたら「尊厳ある生」を守り、支えることができるのかを問う前に、「死なせる」によって尊厳が守られる、という安易な対処がいかに危険であるか」とある。筆者は何を「危険」視しているのか。説明せよ。(二行)

内容説明問題。傍線部の帰結を問う。傍線部は直接的には、⑥段落「尊厳(死)」についての2つの留意点のうち、2点目「もう一つは」以下を承ける。すなわち「「尊厳死」という言葉によって、その前提になるような「尊厳のない状態」「尊厳のない生」が何によってもたらされているのか、という問いをきちんと問うことが妨げられてしまうという点だ」(傍線部前文)を参考にする。傍線部の内容から自然とつながるように「「尊厳のある死」が目的化され/それに至る「尊厳のない状態」の原因が省みられない」(A)と導く。

さらに傍線部の直前「「尊厳ある生」を支えるための医療やケアが不十分ななかで」(B)という記述に留意する。このBの後に「、」があり、傍線部以下「いかにしたら…を問う前に(C)、/「死なせる」によって…安易な対処がいかに危険であるかは明らかであろう」と続く。つまり、読点の使い方が正確ならば、BはCではなく文全体に係るのであり、Cの固定的な与件ではない。ならば「安易な対処」は「「尊厳ある生」を支えるための医療やケアが不十分」である状況を固定化する危険(B+)をももたらすのである。逆に考えれば「いかにしたら「尊厳ある生」を守り/支えることができるか」を自問することで(C)、現状の医療やケアの不足が明確になっていく。新自由主義者の頑なな信奉者でもなければ、その改善に向かうのが知性のあり方として妥当であろう。「A→B+」の流れでまとめる。

ちなみに、日本の政治の主流である(世界的には周回遅れの)新自由主義のグローバリストにとって、終末期医療などを含む高齢者医療は、財政を逼迫し経済成長を妨げるものとして「構造改革」の対象となろう。そして、医療費の圧縮、医療民営化と医療従事者の縮減などの効率化政策の裏庭で、「命の選別」のクリシェがまたぞろ首をもたげるのである。

〈GV解答例〉

「尊厳のある死」が目的化され、それに至る「尊厳のない状態」の原因が省みられず、現状の医療やケアの不足が改善されないこと。(60)

〈参考 S台解答例〉

尊厳のない状態の生を拒み安易に死を選ぶことに加え、尊厳死の前提になる「尊厳のない生」をもたらすものの追求を妨げる危険。(59)

〈参考 K塾解答例〉

尊厳のない状態なら死んだほうがましだと人々に思わせ、また尊厳の生が何によってもたらされているのか、という問いを妨げること。(62)

問六「人工呼吸器の装着は悪い意味での「延命治療」として、忌避する選択肢になってしまう」とある。これはどういうことか。「悪い意味での「延命治療」」とは何かを明確にして説明せよ。(四行)

内容説明問題。誘導に乗って「悪い意味での「延命治療」」(A)を具体化するわけだが、合わせて想定されている「悪い意味ではない「延命治療」」(B)の指摘も解答に含める。解答構文は「人工呼吸器の装着は/Bではなく/Aと見なされ/積極的に避けられる」となる。

Aについては、前⑦段落「「延命治療」という言葉で何を指すかについては…一般的には「治療や回復にはつながらない治療」、その中でも特に「QOLが低い状態で生物学的な生命だけを延ばすような治療」といったマイナスのイメージを伴って使われることが多い」を根拠に圧縮して、「治療や回復にはつながらず/特にQOLの低い状態で生物学的な生命だけを延ばすというような悪い意味の延命治療」とする。Bについては、⑧段落のALS患者の例を承けた「そういう人にとって…その人が自分らしく生きられるための一つのツールなのだ」という記述を根拠に「自分らしく生きるためのツールになりうる」とする。以上を、先の解答構文に当てはめ、つなぎの言葉を言い換えて仕上げとした。

〈GV解答例〉

人工呼吸器の装着は、自分らしく生きるためのツールになりうるという事実が見落とされ、治療や回復にはつながらず、特にQOLの低い状態で生物学的な生命だけを延ばすというような悪い意味の延命治療と決めつけられることで、積極的に避けられるということ。(120)

〈参考 S台解答例〉

人工呼吸器が、人生を充実させ自分らしく生きられるための一つのツールであることを知らされずに選択されるとき、人工呼吸器の装着は、生物学的な生命を延ばすだけの不自然な治療として「延命治療」が退けられるべき選択になってしまうということ。(115)

〈参考 K塾解答例〉

正しい情報提供がなされないと、人工呼吸器の装着は、治療や回復にはつながらず、本人の生活や人生の充実には全く寄与しない悪い意味で延命治療でしかなく、それは避けられるべきものとされるということ。(95)

問七 筆者によると、「尊厳死」や「延命治療」という言葉は、現代医療においてどのように作用しているか。本文全体をふまえて100字以内で説明せよ。

内容説明問題(主旨)。まず、⑦段冒頭「「尊厳死」という美しい言葉が初めから「良いもの」という含みをもっているのとは逆に、「延命治療」という言葉は「悪いもの」という含みをもって使われることが多い」を根拠に、「「尊厳死」「延命治療」はそれぞれ正負の含みを持つことで」(A)と圧縮する。このAが「現代医療における作用」の起点となる。あとは、「本文全体をふまえ」て、Aから導かれる「現代医療における作用」となるものをピックアップする。

一つは、問五でも検討した⑥段落の内容。つまり「尊厳のある死」が正のイメージを担い、その実現が急がれるならば、「尊厳のない状態」と見なされた生は、それに至った原因も問われず蔑ろにされるということ(B)。もう一つは、最終⑧段落、特に冒頭「延命のための特定の医療的介入が…悪い意味での「延命治療」になるか/あるいは当人や家族の「生活」「人生」「いのち」を支えるものになるかは/医学・医療の枠組み…のもとでは判断できないことがしばしばである」、後半「人工呼吸器の装置は…自分らしく生きられるための一つのツール/人工呼吸器をつけ…人生を楽しんでいる人もいることを知らされないまま選択させられたら」を参考にする。つまり「延命治療」に負のイメージが課されることで、それによって支えられたかもしれない患者や家族の「生活」「人生」「いのち」が顧みられるこもなく、生死に関わる医療が行われるということ(C)。このBCの内容を、Aのもたらす作用として「A→「尊厳のない状態」と見なされた生を疎かにし(B)/患者や家族に固有の人生観や生命観を十分に顧みず、生死に関わる医療が行われる(C)/ことを促すように作用する」とまとめた。

〈GV解答例〉

「尊厳死」「延命治療」はそれぞれ正負の含みを持つことで、「尊厳のない状態」と見なされた生を疎かにし、患者や家族に固有の人生観や生命観を十分に顧みず、生死に関わる医療が行われることを促すように作用する。(100)

〈参考 S台解答例〉

「死なさないベクトル」と「死なせるベクトル」の両者が一体となり、「尊厳死」は前提を問われることなく肯定的なものとして、「延命治療」は生の質に寄与しない忌避される否定的なものとして人々にイメージさせる。(100)

〈参考 K塾解答例〉

尊厳死や延命治療の存在する社会的な背景やその内容の吟味をさせることなく、それらの言葉の持つ良いイメージや悪いイメージによって、尊厳死は認めるべきもの、延命治療は避けるべきものと人々に思い込ませる。(98)