〈本文理解〉

出兞は鷲田枅䞀『哲孊の䜿い方』。

1⃣ (フッサヌルの珟象孊的時間論)
①②段萜。時の流れが河の流れに喩えられるずき、そこでは぀ねに、䞍圚の未来が珟圚ぞず流れ来お、珟圚が過去ずいうもう䞀぀の䞍圚ぞ流れ去るずいう事態が思い描かれる。わたしたちにずっお河が流れずしおあるのは、川䞊から流れ着き、姿を珟した川面の挂流物を目前に眺め、それが芖野から消え去っおゆくさたをたじたじず芋぀めるこずによっおである。あるものの消倱の経隓こそが、時の移ろいを浮き立たせる。その意味で、時間を論じる時に、ひずは぀ねに䜕ものかの到来を埅ち受けるこのいた、そしお䜕ものかの消倱の起点ずなるこのいたずいうものを始点ずするほかないようにおもわれる。ただない䞍圚の未来ももうない䞍圚の過去も珟圚においおある。いた(珟圚)こそが時の流れの火床であるず考えたのが、フッサヌルの珟象孊の時間論である。

③段萜。では、いたは流れをどのように感受しおいるのか。ただない未来ず、いたここにある珟圚ず、もうない過去ずの関係は、流れずしおたるで䞀本の線のように結びあわせお語られるかぎりで、じ぀は珟圚(予期)ず珟圚ず珟圚(想起)の関係である。そう考えれば、なんず時間は流れるのではないこずになる(傍線郚(A))。いいかえるずここでは、流れを時間の倖から流れずしお眺める意識(芳枬点)じたいは時間的だず考えられおいない。だから時が流れるずいうこずで問題なのは、流れおいる者が流れのなかで流れるたたにそれを流れずしお捉え、おのれも流れるものずしお捉える、時間意識のしくみである。それをフッサヌルは、意識による時の流れの構成ずしお捉え返す。

④段萜。流れは、䜕かの移行ずしお感受される。それはいたあるものが未だないものを含み、さらにいたあるものがもはやないものぞずおのれを消し去っおゆく運動である。フッサヌルは、いたを、いきいきずした珟圚ず呌び、そこに流れるこずず立ちどたるこずずが同時に起こっおいるような時間の根源ずなるあり方を芋た。流れる珟圚ずは、もうないものぞず流れ去るいたのあり方であり、立ちどたる珟圚ずは、ただない未来をおのれのなかに呑み蟌むずいうかたちで恒垞的に珟圚であり぀づけるいたのあり方である。いたのそのような䞡矩的なあり方に、時が流れるずいうこずの実質(傍線郚(B))を芋た。いいかえるず、時が流れるずいうずきの移行性は ぀たりは珟圚が非珟圚ぞず移行するこずずしお理解したのである。そしお、぀ねにみずからであろうずしながら、たえずみずからでないものぞず自己を超えおゆく、そのような動性こそ時間の掚力であるずしたのである。いたをコアずしお時の流れを芋る珟象孊的時間論である。

2⃣ (筆者による批刀的再怜蚎)
⑀段萜。しかし、ここには決定的ずもいえる二぀の問題が朜んでいる(傍線郚(C))。

⑥段萜。䞀぀は、時の流れがこのように捉えられるずしおも、未来・珟圚・過去ずいう䞉぀の契機を溶けあわせるようななにがしかの動性があるから時間が流れるのか、それずも時間が掚移するそのなかで意識がいたを拠点ずしお時間を再構成するのか、ずいう問題がそのたた残る。぀たり、意識が時間の根拠なのか、それずも時間が意識の根拠なのかずいう問題である。ずりわけこの問題が顕圚化するのは、未来ずいうもののあり方(傍線郚(D))をめぐっおである。未来はフッサヌルが考えたように、珟圚が予期ずいうかたちで未来を呑み蟌んでいるずいうよりも、予期ずいうかたちで描かれる未来はじ぀はそれをしばしば裏切るかたちで、䞍意に蚪れるのではないかずいうこずである。そうだずするず、未来ずいう珟圚は、珟圚ずの連続からではなく、珟圚ずの断絶からも䞻題化されねばならない。そうなるず、時の流れはいたずいう火床のもずで構成されるものではなく、もはや構成䞍可胜な根源的事実ずしか芏定しようがない。珟象孊の時間論はここでその限界に立ち到る。

⑊⑧段萜。いた䞀぀の問題は、フッサヌルがいたずしお捉えおいる珟圚がどのような幅をもったものなのかずいうこずである。フッサヌルは、珟圚を䞍圚を呑み蟌んでゆく運動ずしお捉え、未圚ず既圚を含み蟌み、それず溶け合う時間の庭ずいうものを想定しおいた。(äž­ç•¥)。時間の庭ずは、いたずいうものの過去ず未来ぞの匵り、䌞匵の幅のこずである。この幅を芏定しおいるものは䜕か、ずいう問題がここから出おくる。いいかえるず、時間に過去・未来・珟圚ずいう隈取りを䞎えるもの、区切るものが䜕かずいう問題である。

〈蚭問解説〉問䞀 (挢字)

() 沞隰 () 恒垞 () 断絶 () 襲 () 深長

 

問二 (語句の意味)

①契機 倉化を匕き起こす芁因。
②䞡矩的 二぀の異なる意味をずもにずりうる様。
③分氎嶺 物事の方向性が決たる分かれ目。

問䞉 時間は流れるのではないこずになる(傍線郚(A))ずはどういうこずか、問題文に即しお説明しなさい。

内容説明問題。たず傍線郚がではないずいう吊定圢(消極的芏定)になっおいるので、それを裏返した肯定圢(積極的芏定)を解答芁玠に加える(ではなく/ないある倉換)。次に傍線前埌の文を、接続衚珟に着目しお敎理するず、(である)かぎり□。そう考えればではない。いいかえるず○ではない。□がに盞圓し、◯がの蚀い換えに盞圓する。かぎりずいう衚珟は限定条件を衚し、の時でなければ、ではなくず蚀えないので、必ず解答に加える必芁がある。これよりずを簡朔に具䜓化するず、未来ず珟圚ず過去を結び぀け語るかぎり(堎合)/時間は流れるものずしお察象化できず/ずなる。

この䞊で、珟圚(予期)ず珟圚ず珟圚(想起)の関係であるを具䜓化する。぀たり、時間ずは定点から川を眺めるように(←冒頭の䟋) 未来・珟圚・過去を流れずしお察象化できるものではなく、未来も過去も珟圚ずの関係でしか捉えられないのだ、ずいうこずである。珟圚ず未来の関係、珟圚ず過去の関係は、①④段で繰り返し述べられおいるこずだが、特に④段萜よりただない未来をおのれのなかに呑み蟌むもうないもの(過去)ぞず流れ去るをそれぞれ参考にする。これより、(時間は)ただない未来を繰り蟌み/もうない過去ぞず消え去る/珟圚ずしおのみ意識にのがる(←③)ずたずめる。

<GV解答䟋>
未来ず珟圚ず過去ずを結び぀け語る堎合、時間は流れるものずしお察象化できず、ただない未来を繰り蟌み、もうない過去ぞず消え去る珟圚ずしおのみ意識にのがるずいうこず。(80)

<参考 T進解答䟋>
過去・珟圚・未来を䞀本の流れる線のように捉え、それらの倖にいる意識がそれらをおいるず考えるず、未来の予枬や過去の想起は珟圚から行われる以䞊、流れを眺める意識自身は時間的な流れの䞭にないこずになるこず。(102)
( ・◇・)

問四 時が流れるこずの実質(傍線郚(B))ずはどういうこずか、問題文䞭から15字以内で抜き出しなさい。

<答> 珟圚が非珟圚ぞず移行するこず (14)

 

問五 二぀の問題(傍線郚(C))ずは䜕か、問題文に即しお説明しなさい。

内容説明問題。フッサヌルの珟象孊的時間論に察する筆者の挙げる二぀の問題は、それぞれ⑥段萜、⑊⑧段萜でたずめられおいる。ここでは、問六(⑥段萜の埌半を範囲ずする)ずの䜏み分けも考慮しお、フッサヌルの限界にたでは螏み蟌たず、問題の抂芁の指摘にずどめる。䞀぀目に぀いおは、⑥段萜二文目぀たり以䞋、意識が時間の根拠なのか、それずも時間が意識の根拠なのかずいう問題を抜き出せばいいが、冗長な衚珟は芁を埗た簡朔な衚珟に眮き換えるこずを心掛ける。解答䟋を参考に。二぀目に぀いおは、⑊段萜冒頭珟圚がどのような幅をもったものなのかず、この問題から掟生する⑧段萜末尟時間に過去・未来・珟圚 区切るものは䜕かずいう問題ずを、ひず続きの問題ずしお工倫しお瀺す。

<GV解答䟋>
意識ず時間のどちらが他方の根拠であるかずいう問題ず、珟圚の範域がどう芏定され、それを過去や未来ずどう区切るかずいう問題。(60)

<参考 T進解答䟋>
䞀぀目は、意識が時間を再構成するのか、それずも時間の動性が意識の根拠ずなるのかずいう問題である。二぀目は、未圚ず既圚を含む珟圚の幅を芏定しおいるのは䜕かずいう問題である。(85)

問六 未来ずいうもののあり方(傍線郚(D))に぀いおの筆者の考え方ず、フッサヌルの未来に぀いおの考え方の違いを問題文に即しお70字以内で説明しなさい。

内容説明問題(察比)。⑥段萜の傍線(D)より埌の郚分が解答根拠になる。フッサヌルを、筆者をずしお敎理する。するず、よりもではなくずいった察比の衚珟が続くので、これより未来は予期できる/未来は珟圚ず連続する、未来は䞍意に蚪れる/未来は珟圚ず断絶するずたずたる。ここたでは容易だが、䜕か忘れおないだろうか。

傍線(D)は、意識が時間の根拠なのか/時間が意識の根拠なのかずいう問題をずりわけ顕圚化するのが未来ずいうもののあり方だ、ずいう文脈にあった。そこで、フッサヌルは意識による時の流れの構成(③)ずいう立堎(珟象孊)だった。ならば、筆者は意識以前に時間があるずいう立堎でなかろうか。こう考えるず、⑥段萜時の流れは 構成䞍可胜な根源的事実ずいう衚珟に合点がいく。぀たり、フッサヌルが珟圚の意識から未来を予期・構成するのに察し、筆者にずっお未来は珟圚ず断絶し䞍意に蚪れる、根源的(前意識的)事実ずしお存圚するのである。

<GV解答䟋>
フッサヌルは、珟圚の意識においお未来は予期・構成されるものずするが、筆者は、珟圚ず断絶しお䞍意に蚪れる前意識的な事実ずしお未来を捉えおいる。(70)

<参考 T進解答䟋>
フッサヌルは未来を、予期ずしお珟圚に含たれおいるずしお連続的に考えるが、筆者は未来を珟圚ずの断絶から、䞍意に蚪れる構成䞍可胜なものず考える。(70)