傾向と対策

〈傾向と対策〉 
本年の共通テストを小問ごとに①分野、②形式、③質的特徴の3つの観点から分類し、その傾向を探り、今後の指針を示してみよう。 

 

① 分野横断的な問題できれいに分けにくい問題も少なくなかったが、概ね次のように分類できる。
 

A. 政治分野→8問(25点)  前年→9問(29点)
B. 経済分野→13問(43点)    前年→9問(30点)
C. 倫理分野→3問(10点)    前年→6問(19点)
D. 現社分野→6問(22点)  前年→6問(22点)
旧センター試験より政治・経済分野が出題の中心ではあるが、今回は昨今の円安や物価高を反映してか、経済分野からの出題が目立った。倫理分野(哲学・思想)からは青年期が2問(うち1問はマズローの欲求階層説の順序を問う問題)、西洋の現代思想から1問。後者ではハイデッガー、アーレント、シュヴァイツァー、レヴィナスの思想内容についての判断が問われ、アーレント以外は誤答選択肢で、それぞれサルトル、マザー=テレサ、フロムに修正する必要があった。その他、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)や検察審査会における強制起訴の正確な内容なども問われた。現代用語の基礎知識については普段から関心を持って理解しておく必要がある。 

 

② 設問形式で分類すると以下のようになる。  A. 正文・誤文単純選択問題→14問(43点)    前年14問(45点) B. 正答組み合わせ問題→14問(51点)    前年11問(39点) C. 正文全選択問題→2問(6点)  前年5問(16点) 旧センター従来型のAタイプに対して、BCタイプのより複雑な設問形式が過半を占める。Aタイプは原則4択なのに対し、Bタイプは最大9択、Cタイプは8、9択になるので単純に時間を食い、正答率も下がる。消去法に頼らない概念の正確な理解が求められている。 

 

③ 設問の質的特徴で顕著だったのは、リード文で条件を付して、その条件に合致する選択肢、あるいはその組み合わせを選ばせる問題(条件当てはめ問題)である。全30問のうち12問、得点にして4割強を占める出題となった(①概念の定義に相当する具体例を選ぶ/②具体的発言に相当する抽象的命題を選ぶ/③初期設定の数値を操作し、その変化に相当する数値を選ぶ/④対話の流れ、特に因果関係に沿った発言を選ぶ)。これに複数の資料の読み取りを必要とする問題2問(7点)を加えて、必要な知識を適宜呼び出しながら、その場で深く思考させる問題が全体の過半(51点)を占めた。特に、先の分野別の分類でいうと現代社会、形式別の分類でいうと正答組み合わせ型に、こうした思考問題が多く見られた。 

 

以上より今後の現代社会の学習の指針は以下のようになる。 ① 分析から正答を導くためにはベースとなる知識が必要となる。また、倫理分野や現代用語の基礎知識も広く問われるので、知識の補充は抜かりないようにする。 ② 一方で現代社会をただの用語の暗記と捉えてはならない。基礎的な知識を早い時期に身につけた上で、共通テスト形式の問題(本試験の内容を受けて改良されるはずである)の演習に十分の時間を割く。その時、思考の手順の妥当性について、客観的なアドバイスを受けられる環境にあることが望ましい。

 

〈大問別講評〉

第1問「海外研修の体験から考える国際問題」(25点) 7問中4問が条件当てはめ問題でバリエーションも多彩である。問1はサービス貿易を4つの概念に分類し、それを具体的ケースに当てはめる問題。逆に問6問7は具体的な発言が示され、それに当てはまる抽象的な命題を選ぶ問題。問5はFTAにより得られる利益と損益について初期設定の数値を操作し、その変化に相応する数値を選ぶ問題。いずれも知識というより国語的な読解力と正確な判断力が問われる問題である。
 

第2問「演劇を見た高校生が話し合う将来の目標」(22点) 7問中3問が倫理分野からの出題。問2は「自分についての誇り」に関して各国の若者に調査・集計した表をもとに2人が対話をし、その流れに沿って表を正しく読み取る問題。問4は有効求人倍率の推移を表すグラフが提示され、4つの局面における経済状況の説明と時期を照合させる問題であった。

 

第3問「大学の体験講義から考える現代の社会」(20点) 6問中3問が条件当てはめ問題。問1はGDPの名目と実質の違いをまとめたノートの空欄を上記の条件に沿って埋める問題。問4は「サービスの取引対象」の条件を提示した板書を踏まえ、それに当てはまる事例を過不足なく選ぶ全選択型の問題。問5は情報ビジネスのプラットフォームに関して、先生と生徒の対話の流れに沿った発言を選ぶ問題。いずれも国語的な読解力と正確な判断力が重視されている。

 

第4問「裁判の傍聴を通して考える日本の政治と人権」(22点) いずれも政治分野からの出題。4択の単純選択問題4問は政治分野についての知識の正確性を問う。特に、問1の検察審査会の決議に基づく強制起訴についての選択肢の判断は難しかっただろう。あとの3問は条件当てはめ問題。問2は刑罰の原理に関する思想家の発言と合致する考え方の組み合わせを選ぶ問題。問3問7は対話の流れに沿った発言を選ぶ問題。

 

第5問「『子どもの貧困』をテーマとした探究学習」(11点) 問1は図表の読み取り問題。問2問3は条件当てはめ問題。特に問2は、最初に相対的貧困に関する聞き取り調査のまとめが挙げられ、その背景を2つ(AorB)に分けて具体的に説明した上で、Bタイプに相当する具体的な政策を過不足なく選ばせる全選択型の問題。まず、AとBを明確に性格分類(抽象化)する力が必要である。さらに、具体的な政策を示した選択肢4つのうち、AとBの他に両者とも異なるタイプ(そもそも貧困対策ではない)の選択肢も含まれており、判断に迷ったと推測される。