こんにちは、GVの大岩です。今日は2006年東大国語第一問の解説を行います。

 

東大第一問の解説をアップする理由は以下の三点です。

 

①難度は高いが良問であること。
②標準的な形式で他大学への応用がきくこと。
③公開されている解答に改善の余地が大きいこと。

 

それで、より良い解答を世に提起し議論の俎上に載せようと思っている訳です、が実際はなかなか反応がありせん。笑 解答を作成、提示するにあたり心掛けていることは以下の二点です。

 

①より洗練された解答であること。
②無理のない根拠より導かれた、生徒にも再現可能な解答であること。

 

できれば、こうした解答を提出することで、自らも含めて学ぶものの知の向上に寄与したいと思っています。

 

〈本文理解〉
出典は宇都宮輝夫「死と宗教」。本文の形式面に着目して、重要箇所を抽出する。

①段落。なにゆえに、ほとんどの宗教で何らかの来世観を有し、ほとんどの社会で死者の存続が説かれるのか。「死者は決して消滅などしない」(傍線部ア)からである。以下その説明。「親・子・孫は相互に似ている/名、記憶、伝承の中にも死者は生きている/現代の社会は過去に規定されている/死者は生者に作用を及ぼし続ける実在である/人々は死者を実体のごとく感じる」。

②段落。名、記憶、伝統、こうした社会の連続性をなすものこそ社会のアイデンティティを構成するもので、社会を強固にし安定させる。

③段落。人間の本質は社会性だが、それは同時代者だけではなく、幾世代にもわたる社会の存続に依存しているという意味である。社会とは、生者の中に生きている死者と、生きている生者との共同体である。

④段落前半。「以上のような」過去から現在へという方向は、現在から未来へという方向とパラレルになっている。「人間は自分が死んだあともたぶん生きている人々と社会的な相互作用を行う」(傍線部イ)。人間は死によって自己の存在が意味を失うとは考えずに、死を越えてなお自分と結びついた何かが存続すると考え、それに働きかけることに意義を見出す。

④段落後半。ここで二つの点が大事である。まず、自分が働きかけるのは、虚妄や心理的要請(観念)ではなく、自分が担いいま受け渡そうとしている(実在の)社会である。第二に、人ははかない名声のためにそうしているのではない。人間は価値理念と物質的・観念的利害とによって動くが、ここで作用している価値理念とは「犠牲」ということである(後述)。

⑤段落。社会の連帯は必ず表現されねばならないが、それは現成員と先行者との連帯にも当てはまる。それは意識可能な形にされ、絶えず覚醒されるものでなければならない。この連続性=伝統があってこそ、社会は真に安定し強力でありうる。「それゆえ」先行者は象徴を通じてその実在性がはっきり意識できるようにされなければならない。「先行者の世界は、象徴化される必然性を持つ」(傍線部ウ)ということである。他方、来世観も何らかの実在性を象徴しているのでなければならず、これら二つの必然性は相呼応しているように思われる。

⑥段落。死の運命を呪ったり自暴自棄になることが非難の対象になる一方、どのような社会でも、人間は老いて行くことを潔く受け容れるように期待されている。なにゆえにそうした普遍性が存在するのか。

⑦段落前半。老いた個体が死んでいき若い個体に道を譲らないなら、集団は危殆に瀕する。老いた者は、後継者に役割を引き継ぎ、退場する。これが、人間社会とそこに生きる個人の変わらぬ有りようである。たとえ客観的には社会全体の生がいかに脆い基盤の上にしか据えられていなくとも「他者のために死の犠牲を払うことは評価の対象となる」(傍線部エ)。

⑦段落後半。これこそ宗教の死の本質、命の本質を規定する際には多くの場合に前面に打ち出す「犠牲」というモチーフである。それは、死の恐怖を払拭したい、死後も望ましい生を確保したいという執着の対極にある。主要な宗教伝統は、それを克服する道こそ望むべきものとして提示する。このモチーフは、先行者の世界と生者の世界をつないでいる価値モチーフであるように思われる。そうであれば「先行者の世界に関する表象の基礎にある世俗的一般的価値理念と、来世観の基礎にある宗教的価値理念との間には、通底するないし対応するところがある」(傍線部オ)ように思われる。

 

〈設問解説〉
設問(一)「死者は決して消滅などしない」(傍線部ア)とあるが、どういうことか、説明せよ。(60字程度)

内容説明問題。傍線の文末が否定形なので肯定形に折り返す(ないある変換)。ならば傍線以降の①段落が、傍線の具体的な説明になっていることに着目し「死者は(生物学的には存在しないが)生者に実体のように感じられる」という核ができる。

後は「どういう点で」実体のように感じられるのかを、同じく①段落から過不足なくまとめる(→〈本文理解〉参照)。また、次段落の冒頭が前段落の具体的内容を集約することが多いという傾向に着目し、本問でも「社会の連続性」という表現を利用した。

 

<GV解答例>
死者は、遺伝的かつ社会的に現在を規定し、過去からの連続性を与えるという点で、今を生きる人々に実体として実感されるものだということ。(65字)

<参考 S台解答例>
人間は死後においても、過去からの連続として生者の世界に関わり、現実の社会を支え続ける存在だということ。(51字)

 

設問(二)「人間は自分が死んだあともたぶん生きている人々と社会的な相互作用を行う」(傍線部イ)とあるが、どういうことか、説明せよ。(60字程度)

内容説明問題。「社会的な相互作用」という表現に着目し、「死者→生者」(a)と「死者←生者」(b)をともに示す必要があるだろう。(a)は容易。傍線の後の3文の内容から「人間は、死んだ後の社会が存続するような意義のある行為を選ぶ」とし、「そのことによって(b)を得る」という構文を予定する。
(b)は同④段落に直接的記述が見当たらないので、前後の段落に視野を広げる。それで③段落「死者も生者とともに共同体を構成する」、⑤段落「死者は生者の意識にのぼるように象徴化される」という内容を踏まえて、「人間は(a)によって、生者の社会に意義あるものとして包摂されうる」とした。傍線の「たぶん」は「~うる」という形で表現した。

 

<GV解答例>
人間は、自らが死んだ後も社会が存続・発展するような行為を選ぶことによって、未来社会の中に意義あるものとして包摂されうるということ。(65字)

<参考 S台解答例>
人間は死者となることで、死者との連帯を必要とする生者と呼応して、自分の生きる社会を伝統として未来に受け渡すこと。(56字)

 

設問(三)「先行者の世界は、象徴化される必然性を持つ」(傍線部ウ)とあるが、それはなぜか、説明せよ。(60字程度)

理由説明問題。傍線部ウは前文を簡略化した言い換えであり、前文は「それゆえ」で始まるので、その前文(ウの前2文目)が理由となる。そして、その文が「AであってこそB」となっているので、B(社会の安定)を中心理由にし、その条件A(過去との連続性)は「象徴化」とつなげる。さらに、「象徴化」をウの前3文目を使い「常に意識できる形で表現する」と言い換え、傍線ウの着地点「象徴化の必然性G」につなげる。

以上より「社会の安定のために/過去からの連続性を/常に意識できる形で表現することが欠かせないから」となるが、もう一つ遡及して「なぜ、連続性を~表現することが、社会の安定につながるのか」。ここで、これまでの解答で使っていない②段落が「社会の安定」について述べていることに着目。「連続性こそ社会のアイデンティティを構成し、社会を強固にする」という内容を繰り込む。

 

<GV解答例>
現在の社会を安定的に維持するために、生者の自己規定の基盤となる過去からの連続性を、常に意識できる形で表現することが欠かせないから。(65字)

<参考 S台解答例>
社会の連帯を強力なものにするため、先行する死者を生者の世界を支える存在という形で意識化させる必要があるから。(54字)

 

設問(四)「他者のために犠牲を払うことは評価の対象となる」(傍線部エ)となるが、それはなぜか、説明せよ。(60字程度)

理由説明問題。前⑥段落から⑦段落傍線エまでの意味のまとまり(「犠牲」についての言及)に気づけば、「どのような社会でも「犠牲」を求めるから(→それが評価の対象となるG)」という核ができる。
後は「犠牲」を「不安に抗して死を受容する態度」と言い換えた上で、「なぜ、どの社会も「犠牲」を求めるのか」の理由として⑦段落冒頭から「個体の交替が集団の存続の前提となる」という内容をつかむ。さらに、④段落の後半ですでに「犠牲」について言及していることに着目。「犠牲」は人間に行為を促す「価値理念」であることを加えておこう。

 

<GV解答例>
あらゆる社会において、個体の交替が集団の存続の前提となる以上、不安に抗しても死を受容する態度が、価値理念として共有されているから。(65字)

<参考 S台解答例>
死への不安に抗し、自らの使命を果たし終えて他者の生に道を譲り死んでいくことが、集団の存続には必要だから。(52字)

 

設問(五)「先行者の世界に関する表象の基礎にある世俗的一般的価値理念と、来世観の基礎にある宗教的価値理念との間には、通底するないしは対応するところがある」(傍線部オ)とあるが、どういうことか。本文全体の論旨に即して100字以上120字以内で説明せよ。

内容説明型要約問題。基本的な手順は
1⃣ 傍線部自体を簡単に言い換える。(解答の足場)
2⃣「足場」につながる論旨を取捨し、構文を決定する。(アウトライン)
3⃣ 必要な要素を全文からピックし、アウトラインを具体化する。(デティール)

 

1⃣ 傍線部の構文自体単純。「…世俗的一般的価値理念Aと/…宗教的価値理念Bとは/通底(対応)する」(P)とする。AとBの説明は本文をたどれば見つかりそうだが、それに加えてAとBが「どのように」通底(対応)するのか、説明する必要がありそうだ。

2⃣ 傍線オの文が「そうであれば」で始まり、前文が「このモチーフCは/…/先行者の世界と生者の世界とをつないでいる価値モチーフD/であるように思われる」となっている。Cが同⑦段落の内容「宗教が死の本質を規定する際に打ち出す犠牲というモチーフ」を承けていて、傍線オのBと対応するならば、AとDが対応する。ここでBについて具体化し、同⑦段落傍線エ以降の内容から「死の不安に抗し未来の他者への犠牲として死を受容する宗教的な理念」とする。構文は、とりあえずPのままでよいだろう。

3⃣ 全文を見渡し、Aについては①~⑤段落が該当箇所になる(⑥⑦段落はB)。まずは①段落の内容から「過去の先行者が現在の社会を規定するという実感(A1)」。さらに、④段落冒頭にあるように「過去から現在へ(A1)」は「現在から未来へ(A2)」とパラレルである。A2を具体化すると「自らの行為もその死後の社会に関わると考えること」(④段落前半)となり、それが「犠牲という価値理念B」と重なるということだった(④段落後半)。加えてAは、傍線オでは「世俗的一般的価値理念」とあるが、Bの「宗教的価値理念」と対比して「日常での素朴な実感(に基づく理念)」として捉え直す。

以上よりA(A1+A2)とBを書き換えて、Pを具体化する。「過去の死者の存在が現在の社会を規定し/それゆえ/自らの生も死後の社会と連続性をもつという/現実を生きる中での素朴な実感(A)は/死の不安に抗し未来の他者への犠牲として死を受容する宗教的な理念(B)と/通底(対応)する」(P)。

そこで、AとBが「どう」通底するか、現れ方は違うが「どう」関連するか、である。上に述べたようにAが「日常での実感」であるのに対し、Bは「現実から遊離した理念(行動指針)」である。ならば、AはBの導入口となり、逆にBは現実の行動指針として、社会の安定性を強化する、と捉えることができるだろう。

 

<GV解答例>
過去の死者の存在が現在の社会を規定し、それゆえ自らの生も死後の社会と連続性をもつという現実社会を生きる中での素朴な実感が、死の不安に抗し未来の他者への犠牲として死を受容する宗教的な理念を根づかせ、そのことで社会の存続も可能になるということ。(120)

<参考 S台解答例>
先行する死者が、過去からの社会的な連続性によって生者の現実社会を支えているという一般の考え方と、生者が後続する現実社会の犠牲として死者となるという宗教的な来世観とは、死後への執着を浄化し生者と死者を結ぶという共通の考え方を有していること。(119)

 

設問(六)
a. 沈殿 b. 厳然 c. 要請 d. 従容 e. 克服

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