こんにちは、GVの大岩です。今日は2005年東大国語第一問の解説を行います。

 

東大第一問の解説をアップする理由は以下の三点です。

 

①難度は高いが良問であること。
②標準的な形式で他大学への応用がきくこと。
③公開されている解答に改善の余地が大きいこと。

 

それで、より良い解答を世に提起し議論の俎上に載せようと思っている訳です、が実際はなかなか反応がありせん。笑解答を作成、提示するにあたり心掛けていることは以下の二点です。

 

①より洗練された解答であること。
②無理のない根拠より導かれた、生徒にも再現可能な解答であること。

 

できれば、こうした解答を提出することで、自らも含めて学ぶものの知の向上に寄与したいと思っています。

 

〈本文理解〉
出典は三木清『哲学入門』。本文の形式面に着目して、重要箇所を抽出する。

①段落。すべての道徳は、徳ある人間になることを要求する。徳ある人間とは、徳ある行為をする者のことである。如何なる行為が徳あるものか。この問題は、人間的行為の性質を分析することで明らかにされるべきものだ。

②段落前半。人間はつねに環境のうちに生活している。「かくて」「人間のすべての行為は技術的である」(傍線部ア)。「言い換えると」我々の行為は(自身から出る/能動的/主観的)であると同時に(環境から出る/受動的/客観的)なものである。「そして」主体と環境とを媒介するものが技術である。

②段落後半。人間の行為がかようなものならば、徳は有能であること、技術的に卓越していることでなければならぬ。(大工の例)。(「今日」徳は主観的に理解されている。)「しかるに」ギリシア人には、徳はまさに有能性、働きの立派さを意味したし、ルネサンスの時代には徳は力であると見なした。実際、人間の行為は環境における活動であり、本質的に技術的であることを思うならば、「徳を有能性と考えること、それを力と考えること」(傍線部イ)「でさえも」理由がある。行為は、身体によって意識から脱(ぬ)け出るところにある。したがって、徳も単に意識の問題として考えてはならない(意識の外化という面から考える必要がある)。

③段落。「尤も」道徳的という場合、それは主体である人間に関係している。「しかしながら他方」如何なる人間の行為も物に関係している。人と人との行為的連関は物を媒介とするのがつねである。人間の徳は彼の仕事の有能性から切り離せないのである。

④段落前半。「それのみでなく」人間の行為はすべて技術的だと考えるとき、徳と有能性の関係は一層明瞭になる。(「従来」…)。「しかし」一切の文化は技術的に形成される。「そして」独立な主体と主体とは、客観的に表現された文化を通じて結合される。主体と主体とはすべて表現を通じて行為的に関係する。(挨拶/道徳的行為の例)。「技術的であることによって人間の行為は表現的になる」(傍線部ウ)。一切の文化は技術的に作られ、主体と主体との行為的連関を媒介するのである。

④段落後半。自然に対する技術があるのみでなく、人間に対する技術がある。人間は自然的・社会的環境において、行為的に適応しつつ生活している。自然に対する技術と社会に対する技術は相互に連関しているが、現代においては後者が中心的な問題となっている。

⑤段落前半。「しかし」道徳は心の問題だといわれるなら、心の技術が考えられる。心の徳も技術的に得られる。(理性による非理性の支配/理性と非理性との調和)。心の技術も、単に心にのみ関係するのみでなく、一定の仕方で環境に関係する。「即ち」(物の技術においては、主観と客観の媒介的統一は、物の形を変えることで、物において実現される)。心の技術においては、心の形を変えることで、主体の側において実現される。「かくして」「『人間』が作られる」(傍線部エ)とき、我々は環境の如何なる変化にも、平静を保ち自己を維持することができる。

⑤段落後半。その人間を作る修養は修行として技術的に行われるが、その修行は「むしろ」社会的活動にうちにおいて行われる。我々は環境を形成してゆくことによって真に自己を形成してゆける。いわゆる修行も特定の仕方において(=主体の側で心の形を作ることによって)主体と環境とを技術的に媒介して統一することであっても、心の技術はそれ自身にとどまる限りは個人的である、それは物の技術と結び付くことによって「真に現実的に社会的意味を生じてくる」(傍線部オ)のである。

 

〈設問解説〉
設問(一)「人間のすべての行為は技術的である」(傍線部ア)とあるが、それはなぜか、説明せよ。(60字程度)

理由説明問題。傍線部が「かくて(A)」で導かれるので「人間のすべての行為S→A→技術的G」と繋ぎ、Aを具体化する。するとAは「人間は環境のうちに生活している(A´)」となるが、これではまだ「技術的G」に着地できない。そこで傍線部の次「言い換えると」以下の文と、その次「そして」(前文との継続を強調する接続語)以下の文を根拠にする。A´をさらに具体化し「人間は環境に主体的に働きかけ/環境に制御されながら/生活している」とする。それを「主体と環境を媒介するのが技術だから」に繋ぎ、Gに無理なく着地させる。

 

<GV解答例>
人間はつねに主体として環境に働きかけ、逆に環境から制御されながら生活しているが、その環境への適応を可能にする媒体が技術であるから。(65字)

<参考 S台解答例>
人間は常に環境のうちに生活しており、環境との相互関係において行為するしかないため、両者を媒介する技術が必要だから。(57字)

 

設問(二)「徳を有能性と考えること、それを力と考えること」(傍線部イ)とあるが、どういうことか。(60字程度)

内容説明問題。「徳を/有能であることA、/それを/力と考えることB/(でさえも)」と分けて言い換える。「でさえも」には傍線が引かれていないので、解答に直接繰り込む必要はないが、考慮に入れておく。「さえ」は「(X)、Yさえ~」という形(Xは明示されない場合も多い)で「より程度の重いものを添加する」場合に用いる表現である。ここは判断が難しいが、Aについては傍線より前の部分で大工の例を挙げて言及していると考え、それに徳の一般的イメージからは「より遠い」と考えられる「徳は力であるB」という説明を加えた、と捉える。また、傍線部以下が「行為は…かようなもの(=主客を媒介するもの)として…技術的であることを思うならば」という条件節を承けていることも考慮しておく。
以上を踏まえ、Aについては傍線部より前の部分から「技術的に卓越していること」「働きの立派さ」を根拠として拾い、大工の例でイメージを広げる。Bについては傍線部直後の文の「身体によって意識から脱け出る」を根拠にする。条件節から、Aが「徳の客観性」、Bが「徳の主体性」を表わすと考える。

加えて、傍線部のある②段落後半を承けて「尤も」で始まる、③段落の譲歩部「道徳は主体としての人間に関係する」を踏まえる。つまり、真の徳は「主体の属性」にとどまらず「行為の結果」として現れるのである。

 

<GV解答例>
真の徳は、主体の属性にとどまらず、対象に働きかけ周囲の期待に応えながら、自らの意図を実現した結果として評価されるものだということ。(65字)

<参考 S台解答例>
徳とは、意志の問題ではなく人間が環境に働きかける能力をもつことであり、さらにはそれが周囲から有用なものとされるということ。(61字)

 

設問(三)「技術的であることによって人間の行為は表現的になる」(傍線部ウ)とあるが、どういうことか。(60字程度)

内容説明問題。「人間の行為は/技術的であることによってA/表現的になるB」。解答箇所は〈本文理解〉で示した④段落前半、譲歩部を承けた「しかし」以降である。解答箇所の締めとした文(傍線部の後ろ2文目)の文末が、前の内容を後ろから補足説明する「のである」という表現になっていることにも注意したい。傍線部の直前は具体例になっているので、それでイメージしながら、解答に使う表現としては具体例の前の抽象部(しかし…そして…)を優先する。そこで「文化は技術的に形成される」「主体と主体は客観的な文化を通じて結合される」という内容をピック。また傍線部の後ろから「文化は主体と主体の行為的連関を媒介する」という内容をピック。以上より、Aを文化との関連で説明する。「人間は/客観的な行為的連関を表わす/文化を技術的に形成し/それをたどることによって/B」。「技術的に文化をたどる」は、挨拶の例を根拠に使った。

後は、Bを文脈からそれないように語義に基づいて説明する。「表出」が一方的な感情の現れ(スッキリした!)を表わすなら、「表現」は「通じる」ことを前提とした双方向的な意志疎通となる。

 

<GV解答例>
人間は、客観的な行為的連関を表わす文化を技術的に形成し、またたどることによって、他者との双方向的な意志疎通が可能になるということ。(65字)

<参考 S台解答例>
一切の文化が技術的に形成されているため、人間の行為は技術を駆使することで相互を結びつける社会的意味を持つこと。(55字)

 

設問(四)「『人間』が作られる」(傍線部エ)とあるが、どういうことか。(60字程度)

内容説明問題。①傍線部を導く指示語「かくして」を具体化する。②『人間』のカッコを外して「どういう意味で」人間なのかを明確に示す。まず「かくして」の指示内容である傍線部の前文を「因→果」の順で整理すると「心を変化し心の形を作ることによってA/主体の側で主観と客観を一致させるB」となる。Bが環境(自然・社会)に相対する(←傍線部の直後)人間の説明となる。

Aは、⑤段落の冒頭から説明されている「心の技術」のことで、その具体的説明である⑤段落3文目~5文目を根拠として「心の中の/理性により非理性を抑制し/また理性と非理性との調和を図る」とまとめる。人が「環境のうちにある」という前提も加えておこう。

なお、「自分と環境を統一する主体の確立」というのは、「心の技術」に「物の技術」が加わって真に達成されるものである(問五の領域)。ここで「心の技術」とはあくまで環境に相対する主体の側の構えにとどまるものであるから、上記の方向での解答は、明確に誤りと言える。

 

<GV解答例>
環境内にある人は、心の中にある理性により非理性を抑制し、また非理性との調和を図ることで、主観と客観の一致した人間になるということ。(65字)

<参考 S台解答例>
非理性的なものを理性と調和させつつ、自分と社会とを技術によって能動的に統一する心を持つ主体が確立すること。(53字)

 

設問(五)「真に現実的に社会的意味を生じてくる」(傍線部オ)とあるが、なぜそのように言えるのか、本文全体の論旨に即して100字以上120字以内で説明せよ。

理由説明型要約問題。基本的な手順は
1⃣´ 傍線部自体の端的な理由を示す。(解答の足場)
2⃣「足場」につながる論旨を取捨し、構文を決定する。(アウトライン)
3⃣ 必要な要素を全文からピックし、アウトラインを具体化する。(デティール)

 

1⃣´ まず傍線部を含む一文で見て、端的な理由を考える。すると「心の技術のみでは/個人的である//物の技術が加わることで/社会的意味を生じるG」と整理できる。「個人↔️社会」の対比を意識した上で、技術の主体は人間であることから、解答の大まかな形式は「人間は/心の技術だけでなく/物の技術を加えることで/他者との関係を築けるから」(P)となるだろう。

2⃣ 傍線部に帰着する⑤段落は前半に「心の技術A」が具体的に説明され(設問(四))、後半でAに「物の技術B」が加わることが必要だと述べられる。Bについては、「即ち」以下の文とと傍線部の前文より「物の形を変えることで、物において/環境を形成してゆくことによって/主観と客観の一致した/自己が形成される」という点を押さえておく。
Aについては、設問(四)での考察と、傍線部エの直後、Aの帰結として「我々は環境の如何なる変化に対して自己の平静を保ち、自己を維持することができる」という内容を押さえて、Pを具体化して構文を決める。「人間は/自らの心を制御し主観と客観を一致させることでA´/変化する環境に対して自己を平静に保ちながらC/環境に対して働きかけ主観と客観の一致した自己を形成することでB´/他者との関係を築けるからD」(P´)。

3⃣ B´→Dがまだ分かりにくいし、重なりが多い。そこで「物の技術」について触れてある部分を全文から探すと、③段落の「しかしながら他方」以降と、〈本文理解〉でも分けて示した④段落後半である。両者とも、他の設問で解答の根拠としていない箇所である。
③段落からは「人と人との行為的連関は物を媒介とする」という内容をピック。④段落後半からは「人間は自然的・社会的環境において/行為的(技術的)に適応しつつ生活している」という内容をピック。先述の「主観と客観の一致した自己」を「環境に主体的に働きかけ/行為的連関に影響を及ぼし/環境に適応する自己」と捉え直す。

以上より、P´の「心の技術」以外の部分を具体化し
「自然的・社会的環境の中にある人間は/~/環境に対して主体的に働きかけ/行為的連関に影響を及ぼすことで/自然や社会と適切な関係を築ける」とまとめる。

 

<GV解答例>
自然的・社会的環境の中にある人間は、自らの心を制御し主観と客観を一致させることで、変化する環境に対して自己を平静に保つと同時に、環境に対して主体的に働きかけ行為的連関に影響を及ぼすことで初めて、自然や社会と適切な関係を築くことができるから。(120字)

<参考 S台解答例>
人間は常に社会的・自然的環境の中で相互に関わりながら生きている以上、外部と内部とを技術的に媒介する心の徳は、現実の社会や物との調和した関係を作り上げてゆく技術と結びつくことで初めて、自己の役割を果たす社会的人間を形成するものだから。(116字)

 

設問(六)
a. 卓越 b. 飛躍 c. 顕著 d. 帽子 e. 魂

 

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